【KAC20255】親友と書いてライバルと読む

阿々 亜

親友と書いてライバルと読む

 眠る彼女に、私は優しく布団をかけた。

 栗色の長く美しい髪が乱れており、手で軽く整えてあげる。

 薄い唇の隙間から、すーすーと寝息が漏れている。

 閉じられている目の形すらも美しい。

 我が親友ながらその寝姿にため息が漏れる。


 彼女の名前は天下夢想あました みそら

 国民的アイドルグループSBY109の不動のセンターである。

 彼女はデビュー以来、徹底してダンスにこだわり、自身のリソースの全てをダンスに傾けてきた。

 彼女のダンスは今や日本のアイドル業界でも屈指のレベルであり、彼女の名前とかけて“天下無双の踊り手”と呼ばれていた。


 私は彼女と同期であり、ずっとともに歩んできた。

 プライベートでも親しく、今日も彼女の部屋に泊まりがけで遊びに来ている。

 私はずっと彼女と一緒に進んできた。

 彼女の隣にはいつも私がいた。

 ゆえに自然と比較されてきた。

 私もダンスには自信がある。

 だが、彼女には及ばない。

 いつも一緒にいるはずなのに、彼女の背中は遥か遠い。

 彼女に追いつこうと必死に努力した。

 必死にもがいた。

 だが、どんなに手を伸ばしても彼女には届かない。


 私は眠る彼女の頬に触れた。

 こうして簡単に手を触れられるのに、彼女の存在は私にとってあまりにも遠いのだ。


 彼女は私にとってかけがえのない存在だ。

 彼女がいたからここまで来れた。

 だが、同時に彼女がいるから私は彼女の隣から動けないのだ。

 ステージの中心はいつも彼女であり、私のポジションはその隣なのだ。

 私はアイドルだ。

 アイドルになった者は、すべからくステージの中心を目指すものだ。

 私も例外ではない。

 中心に立ちたい。

 だが、彼女がそこにいる限り、私はそこに立てないのだ。


 私は中心に立つ。

 そう決心した。

 だから……

 彼女の飲み物に睡眠薬を入れた。


 私はもう一度眠る彼女の顔を見た。

 優しい顔をしている。

 私の好きな顔だ。


 私の頬を涙が伝い落ちる。

 私は彼女に別れを告げる。


「さようなら……」


 私は布団を彼女の顔に被せ、その上から全力で押さえつけた。

 ほどなく彼女の手足がじたばたと動き出した。

 だが、上から全体重をかけているので布団をとることはできない。

 しばらくして彼女は動かなくなった。


 こうして、私は親友ライバルを失った。




 親友と書いてライバルと読む 完



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