『天下無双の夜明け』

木曜日御膳

無茶が一番楽しい


 ここは、東京都にあるコミュニティセンターの一室。

 来年始動予定のよさこいサークル『よさ吉』の運営チームは、今日もうんうんと悩んでいた。


「『天下無双の夜明け』、どう表したらいいんだ!」


「ちょ、決めた代表が悩まないでくださいよ!」

 チームの代表である男こと宮城みやぎの叫びに、新人担当・埼玉さいたまは思わずツッコミを入れる。

 よさこいとは、大人数で踊りながら練り歩く伝統舞踊の一つ。鳴子と呼ばれる角張ったしゃもじみたいな形をした打楽器を持ち、色んな曲に合わせて踊れば、大抵よさこいと判別して問題はない。


 よく間違えられる阿波踊りが統一的な伝統的洗練された美しさなら、よさこいは進化し多様性に特化した華やかさが売りである。


 そして『天下無双の夜明け』とは、よさ吉が創設して初めての演舞テーマとして選んだ言葉だ。

『天下無双』、よさこいでよく使われる言葉で、俺たちは唯一無二というのを知らしめたいという言葉。そして、『夜明け』は始めてに相応しいという意味を込めて。


 ……ちなみに提案し、決定したのは、この頭を抱えて悩んでいる創設者兼代表の宮城である。


「まあ、なんなら、ドデカく大幕おおまくに朝日とか描きゃいい」

「なんなら、ドンッと大旗も振って派手にやりたいねぇ」

「そんな金あるか! これだから、よさこいソーラン組は金遣い荒いんだから!」

 けらけらと笑う衣装担当の愛知あいちと北海道に、ぎらりと睨みつける会計担当の長野ながの。大幕とは、よさこいソーラン祭りでよく踊りの背景として使われる幕のこと。一枚作るのにも、それはそれは金と時間がかかる。


「そもそも、『天下無双』はいいとして、『夜明け』ってなんだよ」

「いや、代表が悩むなっての。天下無双ならそれこそ、振付師の私が最強の振付作るけんね」

「九州振り、いかんよ。一般の人は、あんな派手な踊り、ようせんき。やっぱり、鳴子の音をきれいに響かせるのが、よさこいの真髄やき」

「さすがは本場高知と魑魅魍魎の博多だな、でも、色んな土地を融合するのが『よさ吉』の良さだって! 俺的にはタットとかさ、パワームーブしたいなあって!」

 代表の呟きに反応したのは振り付け担当の三人は、博多、高知、東京。現時点で少しばかり相違が生まれそうな予感だと、穏便派である埼玉は頬を引きつらせた。


「夜明けなんて、簡単やろ。作曲家さんにニワトリの降臨をお願いしてコッケコッコーってやって目覚めれば一発や」

「さすがは大阪ちゃん! ベタな案が上手いわなぁ、私は思いつかんかったわ」

「しばくぞ、京女」

 副代表の大阪に、曲担当の京都。あまり仲良くないように見える二人だが、大学時代からの付き合いだ。

 こうして各所で話し合いが起きる中、代表の宮城はうんと唸った。


「夜の決起会から初めて、夢を見て、朝日と共に起きて、天下無双の始まりなクライマックスかあ……コケコッコー……コケコッコー……」

 ぶつぶつと不気味に呟いた後、目を大きく開いた。


「うっし、衣装替えして夜空の布団被ってから、またどーんっと衣装で朝日になる感じにまたチェンジしようぜ!」

「「「はあ!?」」」

 皆が一様に声を上げたのは、この衣装替えという案は一番華やかかつ、最も怖ろしい案だからである。


「衣装替え二回って、衣装三着分のデザインしないとじゃん!」

「い、一枚でも大変なのに!」

 衣装係二人の悲鳴。一枚でも衣装を作るの大変なのに、衣装換えをするギミックを二回追加することになるのだ。


「それって、上着三着分オーダーするってことですよ!? わかってますか!?」

 会計係の悲鳴。ただでさえ、金のないチームなのに、衣装だけでいくらかかるのか怖ろしい。


「衣装替えのパターンを二回挟み込むんか!? ええのぅ! 楽しそう!」

「鳴子をしまうタイミングが必要やき……」

「えー! 服重いと、やれる振り少なくなるじゃん!」

 振り付け担当それぞれの思い。衣装をただ脱ぐにしても、曲を途切れるわけではない、美しく衣装を変える方法を考える必要があるのだ。しかも、二回。

 技術も、練習も、強く求められる。


「もう! 大阪ちゃんの思いつきで、大変なことになったわ」

「うちのせいではないやろ! って、ほんまやるんか!?」

 関西二人のわちゃわちゃ。曲にも、運営にもその負担ははねてくる。


「新人さんに、衣装替え2回はハードル高すぎますよ!?」

 新人担当の焦り。なにせ、彼女が新人のアフターフォローの担当をするのだ。この難易度は、なかなかに高い。


 しかし、そんな非難の声に代表は満面の笑みで応える。


「よさ吉は、『よさこいキ○ガ○』の略だって前言っただろ? こいつらやべぇって思わせる最高の『天下無双の夜明け』にするには、ここまでやっても損はないだろ」


 手を組んで話す姿は、あまりにも堂々たる風格。なによりもだ。


「ここまでやれるなんて、うちのチームだけだ。まじで、わくわくするだろ。証拠に、誰も反対なんて言ってない」

 そう、今までの意見。誰一人として、「やりたくない」は唱えてないのだ。


 やれたら、やりたい。

 困難な山でも、美しい景色が見られるならば登りたい。

 なにせ、ここにいる全員。よさこいへの愛が強すぎて、元々のチームでは浮いていたメンツだ。だからこそ、自分たちがやりたいことを探して、行き着いたのがこの『よさ吉』。


 難しいからこそ、面白い。

 その気持は、皆の目に宿る光が証明していた。 


「誰よりも格好よく、布団を剥いでやろうぜ!」

楽しそうに言う代表に、運営チームは皆、大きく頷いた。


 初お披露目は一年後。

『天下無双の夜明け』はこうして始まったのだった。



終わり


 

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『天下無双の夜明け』 木曜日御膳 @narehatedeath888

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