彼女と、トウモロコシ畑で。

うびぞお

とまれ彼女は映画を語るKAC20254

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 彼女があられもない姿でキスを、その先をも、強請ねだってくるのだ。そんなのあり得ないから夢だって分かってる。しかも、わたしの体が動かなくて何もできなくて、たまらない気分になる。


 なんのことはない。ただの欲求不満、彼女不足だ。

 10日前、彼女は法事か何かの事情で帰省した。すぐ帰ってくる筈が色々あって今日まで帰ってこれず、わたしは9回の夜を一人で過ごした。野球だったら試合終了だ。


「ただいま」

 良かった、帰ってきた。

「おかえり」と言おうとした瞬間、彼女はわたしの腕を取ってテレビの前に座らせた。

「お願いだから黙ってそこにいて下さい」

 そう言って、戸惑うわたしを尻目に、ぱぱぱっと部屋着に着替えて、飲み物だの何だの用意し、そのままわたしの隣に座るとわたしの腕を抱え込んで映画を再生した。

 いきなり、ただいまホラー映画ですか?



 と、思ったけど違った。

 とうもろこし畑を潰して野球場をつくっちゃう映画だった。

「コーンを食べる トリの降臨 ある?」

「ありません!」

 ホラーじゃないけど、今はもういない野球選手や若かりし頃の父親が現れる、言うなら野球ファンタジー。

 なんだ、怖くない映画なら平気


 って思ってたら泣いてた。

 親との葛藤を乗り越える物語にはわたしの涙腺は脆弱すぎる。


「あはは、あなたの泣き顔を見ると帰って来たって気がします」

 わたしが鼻をかんでると、彼女は全身の力を抜いてリラックスした顔を見せた。


「実は、実家で、あなたがつまらなそうな顔してる夢を9晩連続で見てしまいました」


 9回同じ夢を見る欲求不満な女はわたしだけはなかったようだ。

 夢の中身が全然違うけど。

 

「で、なんでこの映画なの?」

「9回で終わるのは野球、野球映画と言ったらこれ。そして、これなら、あなたが絶対泣くって分かってたから」


 彼女はわたしをホラー映画でびびらせて泣かせようとする悪癖持ちだ。

「とにかく泣かせたくって」

 

 そう言う彼女から目を離せない

 

「じゃ、延長戦はわたしが鳴かすけど、覚悟して」

 え? と彼女は言い掛けたけど、もう声は聞こえない。



 あの夢を見たのは9回。でも10回目は夢じゃない。



  


★☆

ネタにした映画『フィールド・オブ・ドリームス』

 


 


 

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彼女と、トウモロコシ畑で。 うびぞお @ubiubiubi

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