おれたちの卒業

鳥尾巻

卒業式

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


『ヒャッハー!』


 卒業式の日。突然、隣の奴が立ち上がり、壇上に手榴弾を投げつけた。どこに隠し持っていたのか見えなかったが、それは彼の手の中に急に湧いて出たように思えた。

 校旗と日章旗の下で、退屈な式辞を述べていた校長は木っ端微塵の肉片になった。会場は阿鼻叫喚の地獄絵図。血飛沫、悲鳴と怒号、そして、誰かが銃を乱射する音。あれは俺だ。いつの間にか両手に握っていた機関銃を笑いながらぶっ放している。


『やめろー!!』


 自分の叫ぶ声とは裏腹に次々と足元に空薬莢が落ち、火薬と埃と血の臭いが肺を満たした。同級生や親、先生たちがバタバタと倒れていくのを、夢の中の俺はなすすべもなく遠い意識の奥で見守っていた。


 あの時、奇跡的に生き残った俺は、少しずつ状況を掴んでいった。世界中で同時に起きた類似の事件は、異星人に意識を乗っ取られたのが原因だった。奴らは通りすがりの未開の惑星の生物の意識を操り、自分たちは安全なところからゲームを楽しんでいたのだ。奴らは念じただけで武器を物質化できる能力を備えていた。そうして仮想の戦争ゲームで先住の生物が死に絶えた後に、自分達が住みやすい環境に作り替えるらしい。


 だが俺のように一時的に意識を乗っ取られても、自我を保つことが出来る人間は存在した。突然変異なのか、憑依した奴の精神が脆弱だったのかは不明だが、俺は憑依した異星人の意識を抑え込み操ることに成功した。情報を盗み、同じ能力を得た仲間と協力し異星人を撃退する武器を製造した。


 俺達は満を持して暗い宇宙を睨む。荒れ果て、灯りのほぼなくなった地上からは夜空の星々が降り注ぐように煌めいて見える。開発した機器を使えば、地球の軌道上に待機している異星人どもの船も見えるはずだ。

 だが今は静かに。息を殺すように。結集した仲間と輪になり奴らに意識をリンクする。何もない空間に、現在の地球の技術では作り得ないはずの地対空兵器が姿を現した。

 時は満ちる。俺は両手を挙げた。音もなく地上を離れた光が奴らの船に一直線に吸い込まれていく。閃光が夜空に広がり、俺は快哉を叫んだ。


「これが俺達の卒業だ!」


 もう、あの夢は見ない。

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おれたちの卒業 鳥尾巻 @toriokan

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