この物語を読んで、私は深く考えさせられました。そう、とても深く。例えば、朝食のトーストに使用する食パンは何枚切りが最適なのか、とか。
主人公の女子高生は、自身の「平凡」を貫き通します。大型トラックを避けるために高く跳躍し、襲い来る通り魔をあっさり制圧する、そんなごく普通の日常。
私は我が身を振り返りました。朝起きて顔を洗い歯を磨く、そのルーティンを「超人的清潔維持能力」と呼ぶ人はいません。つまり「平凡」とは主観的存在なのでしょう。
物語の陰では、異世界の女神が主人公を召喚しようと何度も奮闘しています。しかし主人公の「平凡バリア」は厚く、女神の努力は虚しく跳ね返されてしまいます。
ここで私は、宅配便の再配達を思い出しました。家にいてもインターホンに気づかない日って結構ありますよね。意外と私たちも、知らないうちに異世界に召喚されそうになっているのかもしれません。
あるいはこの物語は「平凡」の定義について問いかけている可能性もあります。しかし平凡な私には、それを深く考察する能力も、異世界に行く才能もありません。
ただ、明日からは少し意識して生活してみようと思います。道端の小石を蹴飛ばした結果、世界のどこかでマトリの降臨が成されているかもしれませんので。
ところでこの感想文を書いている間、隣の部屋から怪しげな光が漏れていました。きっと家族が冷蔵庫でも漁っているのでしょう。異世界への扉が開いたりはしていないはずです。たぶん。
やはり『物語の主人公』になれるのは、そういう資格を持った存在なのだな、と強く感じさせられました。
あまりにも「平凡」な女子高生である主人公の「私」は、ある時にトラックに轢かれて異世界転生しそうになる。
だが、彼女は素早く反応。そして高く跳躍してそれを回避する。
読んで納得! たしかに「平凡」だ! 女子高生ならこれくらいは普通だよね! と読者は間違いなく、彼女の「平凡さ」に共感してしまうことでしょう。
この、圧倒的説得力!!!
その後も異世界の存在は彼女を召喚しようと様々な手を打つが、彼女はあまりにも「平凡」であるため、物語の主人公になることができない。
それが、平凡な者の宿命。
本作はそんな「リアル」を浮き彫りにした作品であると言えるでしょう。
いわゆる「青春時代」をとうに終えて、現役の学生と触れあう機会のない方は、「女子高生の平均」がどんなものなのかを本作によって知ることができる。
そんな社会の資料としてもお役立ちな一作。エンタメとして楽しみつつ、世の中の普通を知ることができるので、時代遅れにならずに済むという、そんなグッジョブ!!
「なんの能力もない人間が異世界に行って苦労する話なのか」と思ったら全然違った様相を見せ、読者の度肝を抜いてくれる作品です。
どこまでも平凡すぎる彼女の日々。是非とも覗いてみてください。