9年目のホワイトデーの贈り物

病室で

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「ホワイトデーのプレゼント、何がいい?」


 あなたはいてきた。

 私は驚いた。

 普段、あなたからプレゼントなんてもらったこともなかったから。


「そんなの、自分で考えてよ」


 あなたが選んでくれるのが何か、それにドキドキするのもプレゼントの一部なんじゃないの?


「そっか、そうだよな」


 ねたように私が返したら、あなたは頭をかいていた。


 あれからもう、9年。


 あの時のことは今でも、あの日になれば夢に見る。ずっと。


 バレンタインデーの翌日、あなたは事故にって、眠ったままになってしまった。


 私とあの子を残して。


 小さかったあの子も小学校の卒業式をむかえます。


 お義母かあさまにはずいぶん助けてもらったけど、あの子の子育てをしながら、いつ目覚めるとも分からないあなたに寄りそう日々はたいへんでした。


 いつまで、続くのかな?


 それが何より、私に重くのしかかる。


 愛するあなた。

 愛するあの子。


 天秤てんびんにかけられるものではないけれど、時にあの子が「パパとぼく、どっちが大事なの!」なんて、癇癪かんしゃく起こされると胸は張り裂けそうになる。


「ごめんね」


 あの子は夜中にそっと泣いている私に寄りそってくれるようになりました。


「ううん。私こそごめんね」


 この子のためにもがんばらないと。

 あなたが帰ってきたとき、怒られちゃう。


 あの時の答えは何がよかったのか、夢を見るたび毎年思うけれど、今年ならやっぱり。


「帰ってきて。一緒に、あの子の成長を祝おう。卒業式のあと、美味しいものでも食べに行こう」


 涙が一筋、私のほほから、あなたの頬へ。


 私はいつも、あなたの手をにぎる。

 白い病室。

 窓の外に見える風景も、そろそろ春の色がく。


 それよりも、あなたの白い顔をいつも見ている。


 帰ってきて。


 願いはそれだけ。


 あなたはいつも弱くも手を握り返してくれる。

 それが私のはかない希望。

 きっと帰ってきてくれる。


 10年は長いよ。


 帰ってきて。


 きゅっと、あなたの手が、いつにもまして力強く……!


「ごめん、待たせたね」


 私はあなたの胸にすがって、泣いた。

 いいたいことはいっぱいあったはずなのに、それしかできなかった。


「おかえりなさい」


「ただいま」


 涙が止まっていえたことは、それだけだった。

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