構造が面白くて、オチもある作品
ミステリー作家さん謹製の恋愛小説は、仕掛け玩具みたいに精密
詐欺を馴れ初めとした生活はうまく行き過ぎて訝しいけど、オチで納得。この作者さまの歯車に狂いはない。
幾何学模様みたいに、規則正しくアルゴリズムが繰り返される恋愛物語は、続きがなくても続きを想像できる
個人的に見てみたいなと思うのは、ロズリーヌ晩年の物語
それでも主人公が知らぬ間に惹かれてしまうなら、運命はお互いだけを見詰めて閉じているのかも知れない
なら、ロズリーヌが長命な生涯を全うしたとしても、二人はまた出会ってしまうのだろうか
同じ恋が無限遠まで繰り返されるなら、宇宙みたいで途方もない気持ちになる
悲恋で、互いの罪意識を伴って切ない
でも好きな人を無限に追いかけていられるなら、主人公は幸せなのかも
ロズリーヌ側の立場で読むと感慨深い
完成度も高く、堅牢な筆致で安心して没頭できる一作
『転生』が当たり前に認識されている世界で、人生一発逆転を目論み、「転生詐欺」を働こうとする主人公・フィル……しかし標的である高齢女性・ロズリーヌとの対面から、事態は思わぬ方向に転がっていき……?
作者の黒澤カヌレ様は、他作品でも「どんでん返し」や「オチのビックリ!」を表現するのが、抜群に上手な作家様です。ホラーではゾッと背筋を冷えさせ、ミステリーでは巧みなギミックに驚かされ、時にはコミカルで落語の如く面白いオチがつくという。
そして、今回は……泣かされました! やはり「どんでん返し」の仕掛けは存在し、丁寧かつ繊細に描写を重ねてきた上で、秘されていたものが明かされる瞬間……。
そこの驚きが大きい分、「真実の愛」を強く感じることは、間違いありません。
一話完結でスパッと読める、けれど深い充実感のある美しい純愛作品……是非、是非ともご一読、おすすめ致します……!
いやはや。またしてもやられましたな。
主人公は、おそらく墓守か何かの職業をして日銭を稼いでいるどこぞの馬骨なのですが、
ある時、一攫千金の勝負に出まする。
墓に刻まれた、フィルという男性の名前……これは、街に住む高齢の女性、ロズリーヌの夫の墓にございます。
主人公は、『蘇ったフィル』を装い、ロズリーヌの家に向かい、
合法的に大金を得ようと目論むですが、
ここでアクシデントが。
なんと老婆は、老婆を装った若いエルフ族の女性でございました……。
そこから二転三転し、ここからです!! ここからがこの作家先生の恐ろしい所なのですが、
最後の最後で、一番最初のセリフが効いてくるのですな!!
あ、そういうことなの!? という……ね。
……
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……ところで、現在、カヌレ先生の影武者を務めさせていただいている私から皆様に嬉しい報告がございます。
……ええ、そんなわけで10回目の転生を果たした主人公なのですが、
今度は門前で、用意した例のフレーズをついに口にしてしまいます。
すなわち……
「あの夢を見たのは、これで10回目だった」
ここでさすがにロズリーヌは怪訝な目をします。
これがフィルのはずがない。フィルが、こんな可笑しい「こそあど」のなってない言葉を使うはずがない……
しかし、10度目の正直ということもあるかということで、家に迎え入れるロズリーヌであったが、
やはり今回のフィルは「こそあど」が可笑しい。
「あの紅茶をとってくれ。ほら、この棚にある」
「俺はそれは『絶対に間違っていると思う』!!」
……などと、どっちやねん! とツッコみたくなる生活に碧碧したロズリーヌはついにカチンときた。
「俺が本物のフィルならよかったのにな」
「……私が本物のフィレ(肉)にしてやるわよ」
というブラックサスペンスを執筆中にございます!!
先生の今後の執筆にご期待ください!!
ネタバレになるので具体的な内容を控えますが、タイトル通りではあります。
しかし、タイトル詐欺なんですね。
不思議な二重構造が秘められているのがこの作品の最大な特徴。
エルフの未亡人、なるほど、そうくるか、
エルフならではってことがちゃんと活かされています。
本当エルフっていいですよね、やっぱりいいですよね笑
作者さんの技量だけではなく、異世界のラブコメならではフェチズムもついてくるこの熱量も最高です。
転生をそう使うのかという新しい仕掛けもあるのに、構成にも仕掛けがある。
導入も分かりやすいし、だんだんハマっていく中盤も最高、何よりも締め方がすごい綺麗。
こんなコスパもいいのに、美しい短編をポンポン出していく作者様の技量はさすがとしか言いようがありません。
短編で起承転結も上手くて、仕掛けも上手って技量がないとプロもできないと言われたことがあります。まさか、カクヨム界の芥川龍之介にでもなるつもりか笑
これからも応援しています。
新作を楽しみにしています
転生者がたくさんいて、前世の記憶を持つ者がいるのが当たり前の世界。
そんな世界で、主人公はあることを思いつく。
それは、ロズリーヌという老婆の死んだ夫、フィルの生まれ変わりだと自分を偽ることで、彼女の財産を手に入れようというもの。
しかし、ここから主人公の誤算が生じる。
ロズリーヌの年老いたその姿は偽りで、実は美しいエルフだったのだ。
老婆なら騙せると思っていた主人公はまずいと焦る。
しかし、逃げるべきだ、と考えながらも彼女と過ごしていくうちに、だんだんと彼女を本当に愛おしく思うようになっていく……。
簡潔にまとめると上記のようなストーリーになるのですが、とても心温まるいいお話でした。
ミステリー系の作品をたくさん執筆している黒澤カヌレさんですが、こういう話も書けるのか、とその多才さに驚かされました。
しかし、この作品にもこの作者特有の意外性のある事実が終盤に判明するので、そういうのを求めている人にとっても面白い作品だと思います。
万人受けする作品だと思うので、多くの人にご一読をお勧めします。