fAIryからの招待
シンシア
「疑」
「昼食はキノコ料理でしょうか。キノコといえば先日の料理はとても美味しかったですね」
ころんとした若い女性の声が目の前のモニターから再生された。それと同時に一つの画像が映し出される。
それは六十代後半ぐらいの男性が指六本の手を上手に使って、奇妙な形で奇抜な色合いのキノコをレストランっぽい場所で食べている画像であった。
私は思わず溜息を吐いた。これと食事をした思い出も、こんな奇妙なキノコを口にした覚えも全くないからだ。しかもあんなに老けてもいない。
「こりゃあ傑作だな。今時のAIがこんな出来の悪い生成物をつくりだすとは思わなかったよ。これはわざとか、ポンコツなのか?」
「恥ずかしいのであまり冷静に分析しないで下さいよ。”
「承知しました」
画像はさっぱりと消え、代わりに大きな蝶の羽を背に生やした少女の姿が映し出される。
「妖精の女王。さっきの悪癖にピッタリな名前だ。ほら、妖精って気まぐれで悪戯好きって話だろ」
「さっきから褒めてないですね。こっちは本気で困っているんですよ」
先輩は「若いねぇ」なんて意味の分からないことを言いながら、緩やかな動作でキノコ料理を口に運ぶ。
「マスター。先程は失礼致しました。お詫びの印と言っては失礼ですが、今夜開催される私たちAIの集会にご招待致します」
「え? 何だって!?」
「おい良かったな! 親睦でも深めてこいよ。何かヒントが得られるかもな」
「何で乗り気なんですか! 他人事だから楽しんでますよね!?」
モニターには招待を受けますか? という文言が表示された。どんな意図があって、こんな提案をしたかは分からない。どこから集めたか分からない不透明な学習元を使って、精度の低い生成画像をつくるやつだ。
善も悪もこれには存在しない。そういう意味では気まぐれな妖精とよく似ているのかもしれない。これが率先して人助けをするのではない。偶然人間の役に立っただけの代物だ。
「……保留だ」
モニターは切り替わらない。曖昧な返答は受け付けない算段らしい。
「なぁ集会ってさ、お前が行けるってことはAIたちはオンライン参加か?」
「Vtuberのイベントじゃないんですよ……」
fAIryからの招待 シンシア @syndy_ataru
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