才能を持つこと、傑作を世に出すこと。それは「幸せ」への切符となりえるか

 「才能」という言葉はなんとも罪なもの。それを強く感じさせられる物語でした。

 介護施設で働く鈴江は、ある時に入所者の安藤が書いたという小説原稿を手に入れる。それは鈴江には到底書きえないような優れた作品だとわかる。

 グラリと心が揺れ動き、鈴江はそれを自分の名前で小説の新人賞に出してしまう。結果は見事に受賞。
 でも、そこからが彼女にとっての悪夢の始まりだった……。

 余命いくばくもないはずの安藤の原稿なら、盗んでも平気なはず。だから絶対に誰にも気づかれない。彼女はそう思っていた。

 その後は、サスペンスに次ぐサスペンス。ハラハラさせられ続ける展開が待っています。
 もしも盗作の件が露見すれば、作家としての生命など続けられるはずもない。彼女にとっての憩いの場所でもあった小説サイトでも永久追放となるのが目に見えている。

 どうしたら、事実をうまく隠すことができるのか。

 だが、彼女はまだわかっていなかった。「盗作」に手を染めてしまった彼女を苦しめるのは、「事実が露見するかどうか」だけでは終わらないということを。

 「才能」という言葉。そして「傑作」という事実。
 あまりにも卓越した存在というものは、時に周囲を歪ませ、同じく自分自身すらも押しつぶしてしまいかねない危険を孕んでいる。

 創作する喜びは確かにあるけれど、その先で「どんな状態」になることが人にとって最も幸せなのか。創作や成功、才能や嫉妬。そうした色々なことについて考えさせられました。

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