KAC20253 伝承の残る場所。そこは……

久遠 れんり

伝承の残る場所

「皆がさ、卒業旅行へ行こうって」

 電話が終わり、寝転がっている俺に覆い被さってくる乃愛のあ


「旅行か…… とりあえず引っ越しの準備は、すまさないとまずいんだが」

 そう寝転がっているベッドから、リビングの方を向くと荷物が積み上がっている。


 四月になれば入社式、その前に引っ越しをして、すべてを済まさなければいけない。


 そして、乃愛は手伝いに来て早々、なぜだか汗をかいたと言って勝手にシャワーを浴び、俺を襲った。


 多分片付けが、面倒だったのだろう。


「エッチをして、片付けが進まず、昼食の時間」

「私みたいに頼めば良いじゃない」

 乃愛は、引っ越しパックを頼んだ。

 俺は家の中に知らない人が入るのが嫌だったのだが、そうも言っていられない気がする。


 無論友人がいない訳ではない、皆が引っ越し中なのだ。


「皆、頑張っていると思ったのに、なんで旅行?」

「疲れたんじゃない? 行き先も温泉とか言っていたよ。えーと鬼走り温泉?」

「嫌な名前だな」

「なんで。奥には姿見? えーと、現し身の滝とか、妖精が飛び交う丘なんて言うのもあるよ」

 そう言って、そこの観光協会のホームパージを読みあさっている。


「ほら服を着て、少しはかたせよ」

 そう言うと、ぶーたれる。


「えーご飯は?」

 そう聞かれて俺は答える。


「裸で行くのか?」

 そう言うと、嬉しそうに言いやがった。


「えー、裸でさっきいったよ」

 どうしても掃除をする気が無いようだ。


「よし良い物がある。動きたくても動けないようにしてやろう」

 そう言って俺は、電気マッサージ器のスイッチを入れる。

 彼女はこれが大好きなのだ。


「ちょっとそれは駄目、本当に動けなくなるから」

「ほら、きちんと足と手を縛ってやるから」

「それだめ。この前お漏らししちゃったし」

「ああ、マットを洗うの大変だったよ」

「だから駄目ぇ……」



「―― ほらいい加減にしろ」

「鬼、悪魔、足腰が立たない」

 そう言っている彼女に囁く。


「そうか残念だ、あそこのパスタが食いたいと思ったのだが」

「えっ行く」

 そう言って、よたよたと動き始める。


「山の幸パスタおいしい」

 そんな二日後、ワンボックスのレンタカーを借りて、俺達は山へ。



「この谷沿いが、鬼走りと言うらしい」

 今回の計画発案者である木村 直人きむら なおとがスマホを見ながら説明してくれる。

 谷は結構尖った岩が生えていて、それっぽい。

 だけど……


「そしてこの谷沿いに温泉があり、さらに奥へ行くと姿見の滝がある。あっ違う現し身の滝?だな」

 …… 

 現し身って、現世の姿が何たらかんたらじゃなかったか?


「なあその、現し身って怖い伝承なかったか?」

 何か気になった話しがあった気がして聞いてみる。


「ああ? 夜中に鏡に映った自分を見て腰を抜かしたのか?」

 野田 俊彦のだ としひこがいつもの様に会話をかき混ぜる。


「のだっち、それを言っていたの自分じゃなかった?」

 川上 美紀かわかみ みきがそう言って思いだした。


「前にあったな、まだ髪が長い頃、結んでいた紐が切れて……」

「あああれ、思い出した。あったあった。幽霊が出たぁって電話が来て、よくよく見たらざんばら髪をした自分が映っていたって……」

「あの後、速攻で散髪に行ったよな」

「あー懐かし」


 一見、仲が良い俺達だが、俺、宮守 凜みやもり りん見代 乃愛みしろ のあが番。


 木村 直人きむら なおと川上 美紀かわかみ みきがセット。

 野田 俊彦のだ としひこ片桐 理紗かたぎり りさがセットなのだが、野田の元カノが川上だったりする。


 大学内は広いが、友人関係は狭いからな。


 だが意外と、刃傷沙汰にはなっていない。


「おし、とりあえず宿へ行こう」

 そうして、木村君お勧めのお宿。


「古風な、古民家風宿だな……」

「騙されたぁ」

 木村が膝をつく。


 表から見ると、古民家風だが、一歩入ると、どう見ても普通のホテル。

 鉄筋コンクリートな感じだな。


 入り口は古民家風だが、背後に立っていたおっきな建物が本体のようだ。


 カードではなく腕輪がキーらしい。


 カウンター横から奥へ行き、エスカレーターで一つ上がりエレベーターに乗る。

「俺達は、四二一九号室だから」

 木村達が四階で降りる。

 俺達が五階。五二二〇号室

 野田達は六階。六二二〇号室


 四階だけ四二一九なのは、自販機コーナーや大広間があるから。

 氷とかも必要なら四階へ来ないといけない。

 このホテル、実質二階から五階までが客室。

 ちなみに六階は大浴場。

 そして各部屋、露天風呂付きで六万円という破格な値段。

 面倒だが、一番良い景色は決まっていて、階を分けないといけなかったらしい。

「どんだけ景色にこだわるんだよ」


 木村こだわりの其の谷は、見下ろせば普通の谷だった。


「どうする? お風呂入って外を見ながら一回する? なんか外から見えそうね」

「この高さだけど、山から望遠鏡で覗けば見えるだろうが、肉眼じゃ無理だろ」

「なんだ見えないのか……」

 なぜか残念そうな乃愛。

 こいつって、付き合い始めたときすごく古風というかお堅い奴だったのに、数回エッチするとハマったようだ。

 いまでは、好き者と言っても過言ではないだろう。



 その頃。木村と川上の部屋では……

「どうして?」

「うん? どうした、この前から元気がないな」

「えっ、ううん」


 一応気になったから、俊彦に聞いた。

 今回の旅行、お勧めで直人に言ったかを。


 『いやあ偶然だろ、近くで温泉、それもお手軽だし。気にするな』

 俊彦と美紀は先月もここへ来た。


 そう元カレと元カノ、何の因果か付き合った男は手近な友人。

 人間完璧な人は居なくて、愚痴も出る。

 特に就職が決まらず苛ついたり相談に乗って貰ったり、自分に乗って貰ったり……

 ちょっと飲んで、つい、魔が差した。

 すると、感情がぶり返す。


 そう浮気とかで別れた訳ではなく、喧嘩をしてそのままだった。

 再び会えば友人の彼女だったり……


「まあ、木村の前では始めましてと言ったが、お前は知っているよな。言うなよ」

 そう、俺と野田は古い付き合い。

 木村は、学部が振り分けになってからの友人。


 ちなみに理紗は、ちょろっとだけ付き合ったことがある。

 見た目と違い性格が悪く別れた。

 野田の彼女になっていたのは驚きだが、俺達の関係は復活したりしない。


 世の中は狭い。



 まあ、少しゆっくりして、晩飯にはちょっと早い四時頃。

「周囲散策に行かないか?」

 そんな連絡が来た。


 乃愛は半分服を脱ぎ掛かっていたが、着直す。

 頭をなでて、二階のロビーへと降りる。


 二階で待っていると、降りてきた川上の顔が少し引きつっている。

 直人は普通。と言うかこいつ、いつも普通だから判らない。


 やがて、俊彦と理紗が来た。



「ホテルの裏から、遊歩道に繋がっているらしい」

 そう言って、玄関ではなく奥へと進む。


 物騒にも、裏口には鍵も掛かっていなかった。

「ああ。こっち側、非常口になっているんだな」

「非常口は大事だな覚えておこう」

 そう言って、キョロキョロと確認をする。


「さあ、晩飯前に、二キロほどのお散歩だ」

 そう言って、歩き始める。


「なんで、鬼走りって言うんだろ?」

 乃愛に聞かれても、由来は判らない。


「お祭りはあるんだけどなぁ」

 ここに来ると判ったとき、ちょっと気になって調べた。

 五穀豊穣を願う神事や、厄災避けで鬼に扮する祭とか。


「やっぱり見た目じゃない。鍾乳洞でもないのに尖った石が一杯」

「そうだな、変わっているなぁ」


 そうして、歩いて行くうちに、沢にそって曲がる……

 その瞬間、俺のセンサーに何かが感じられる。


「うわぁ」

「どうしたの?」

「なんでこんな場所を選んだんだ?」

「えっ、どうしたの? 顔が青いよ」

 その時、嫌な空気と匂い、そして体が重くなっていた。


 その時、橋が見える。


「この橋の右側が、妖精が飛び交う丘らしいよ」

 そこは、おっきめの涸れ沢のようで、左右を削られ中央が中州のようになっている。長年誰も触れていないようなのに木は生えておらず草原、中央には固そうな岩の柱が突き出ている。


「うわ、丘というよりおっぱいだね」

 乃愛がそんなぼけたことを言い出した。


 だがそれより、気持ちが悪い。


 ここは、古来捨てたところだ。

 それが何かは判らない、病気の者か口減らしの子どもか、頭に色々な感情が…… 消えかかり不完全な物が流れ込んでくる。

 たまに、地方に行くと、昔の首切り場などの遺跡がある。

 そこではたまに、こんな風に残っているときがある。

「駄目だ、俺は先に行くぞ」


 そう言ってその場を離れる。

 乃愛は付いてきたが、まだ皆は妖精が出ないかと見ているようだ。


「あそこで出るのは、人魂…… 鬼火くらいだろ」

「ふーん。だから鬼走り」

「そうかもな」

 そのまま歩き、俺は場から離れたかった。


 だけど、なぜかひどくなる。


 尾根沿いに回り込む。

 こちらは橋が架かっておらず……


 奥には滝があった。

 崖が割れたような滝。

 川がそんなに大きくないため、水がカーテンのように流れ落ちている。


「現し身の滝って言うくらい綺麗。本当に映りそう」



 嬉しそうな乃愛だが、俺は我慢が出来ずにマーライオンをしてしまった。

「ちょっと大丈夫?」

「ここは駄目だ、ここは黄泉路よみじだ。行くぞ」

 葬式と同じ、道を戻ってはいけない気がして、ぐるっと一周をしてホテルへと戻る。



 そうして、ホテルが見えだした頃、乃愛に言われる。

「凜、私いっぱいエッチするから捨てないでね」

「はっ? 何だそりゃ」

「いや、職場の関係で、住むところがちょっと遠くなるじゃない。理紗ちゃんが言っていたの。凜は求めたときに嫌がると、簡単に捨てるような極悪人だからって」

「そんな事、いつ?」

「野田さんから彼女って紹介されたとき。理紗ちゃんの態度がおかしかったから聞いたの」

 そう言って抱きついてくる。


「キスは駄目。さっきゲロしたばかりだから」

「はっ、そうだ。もう大丈夫?」

「ああ、それと無理矢理エッチ付き合わなくていいぞ」

「なんで? 私するの好きだよ」


 なんて、言う感じで俺達は帰った。


 ぼちぼち晩飯だというのに、皆と連絡が付かず、探し回る。


 まさかと思い、妖精が飛び交う丘へ……


 そこには、季節外れの蛍が……


 ライトを向けると、四人が落ちていた……

「惹かれたんですね。たまにいるんですよ」

「うわあぁ」


 横にいつの間にか、女将さんが立っていた。

「いえ、あわてた感じだったから、きっとそうだろうと思いまして。こんなファンタジーな名前を付けるから人が呼ばれるんですよ。ここは昔の、まあ風葬地なんです。淋しいらしくて、たまに呼ぶんですよ」

「そういえば、さっき蛍が……」

「それは鬼火です。追いかけちゃ駄目ですよ」


 連絡が行き、引き上げられた彼らの顔はひどく穏やかに見えた。だが、本当は閉じても閉じても、目は開き口も開く。

 そう見つけたときは、何かを見てしまった様な驚いた顔だったとか。


 俺達は、一気に友人を亡くしてしまった。


 そのせいか、俺の家には一度来たら帰らなくなった居候が一人。

「凜くん。ご飯」

「馬鹿野郎、動け。エッチだけの要員など要らん」

「えー本当にぃ」

「マッサージしてやる」

「駄目それ、魂が抜けるから。うきゃあぁー」



 この後、あまりにも人が落ちるから、妖精が飛び交う丘へは行けなくなったとか……

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