ことりのうた / 童話・朗読台本

よるん、

ことりのうた

 ことりは、歌うことが大好きでした。

 ひとたび歌えば、みんなが上手だね、と褒めてくれます。

 言われるたびに、ことりは胸をそらして応えます。


「ぼくほど歌が上手いとりはいないさ。」


 実際、周りのとりたちの中では、ことりが一番、歌が上手いのでした。


「きみは、すごいんだねえ。」


 仲間のとりに褒められると、ことりは、いい気分でまた歌を披露します。


 たくさん歌っていると、いつの間にか、とりたちが集まってきました。

 ことりの綺麗な歌声に引き寄せられてきたのです。


「ねぇきみ。」


 その中の一羽が、ことりに話しかけてきました。


「きみは歌がうまいんだねえ。そうだ、ぼくと一緒に歌おうよ。」


 そのとりは、見たことのない羽の形をしていました。

 薄茶色の体を震わせて、わくわくした表情をしています。

 どこからきたんだろう。不思議に思いながらも、ことりは頷きます。


「いいよ。ぼくについてこられるならね。」


 知らないとり相手にも、ことりは自信満々に言います。

 誰にだって、負ける気はしません。

 自分が世界で一番、歌が上手いとりなんですから。


 でも、歌い始めると、ことりはどこか調子が狂ってしまいます。

 今まで、ことりほど綺麗に歌うとりはいなかったのに、彼は見事にことりの歌に合わせてくるのです。


 初めてのことで、ことりはびっくりして、声が弱々しくなっていきます。

 でも、彼はそのまま、伸びやかな声で歌い続けました。

 堂々としていて、芯のあるあたたかな歌声でした。


 歌い終わると、とりたちから歓声が飛び交いました。

 すごいすごい、と称賛の声が上がります。

 それなのに、ことりの心はモヤモヤしてしまいます。

 いつもみたいに胸をそらすことができません。

 うつむきがちなことりに、彼は嬉しそうに言いました。


「ありがとう。一緒に歌えて、すごく楽しかったよ。」


 微笑む彼の目を見れなくて、ことりは、その場から逃げ出してしまいました。

 このモヤモヤした感情がなんなのか、わからなかったのです。


「あーあ。つまんないな。」


 ことりはふてくされて、みんなのいない方へ向かいます。

 しばらく行くと、一本の高いスギの木がありました。

 この頂上で、あたりを見回すのが、ことりは大好きでした。

 いつもの木の枝に止まると、おーい、という声が聞こえました。


「ねえきみ、ちょっとまってよ。」


 後ろから、例の薄茶色のとりがやってきました。

 ことりの様子がおかしいので、心配で追ってきていたのです。


「なにしにきたのさ。」


 ことりはムッとして言います。

 彼は、ことりの隣の枝に止まると、ふう、と息をつきました。


「ぼく、きみとまだ話したかったのに、すぐにどっか行っちゃうんだもん。」


「べつに、話すことなんてないよ。」


 そうやって、ぶっきらぼうな口調になってしまう自分も、なんだか嫌でした。


「そんなこと言わずにさ、また一緒に歌おうよ。ぼく、あんなに楽しく歌えたの、初めてだったんだ。」


 そう言われて、ことりはびっくりしました。

 彼はすごく堂々としていたから、ことりよりもずっと歌い慣れているのだと思っていたのです。


「ぼく、色んなところを転々と飛び回っているんだ。今までたくさん歌ってきたけど、君の綺麗な歌声に合わせて歌うのが一番楽しかったんだよ。」


 彼は本当に嬉しそうに羽をはばたかせます。

 その様子を見て、ことりは、あることに気付きました。


「ぼく、自分が一番歌が上手いと思ってたんだ。だから、誰かと合わせるなんて、考えもしなかった。きみは、すごいね。」


 ことりは、自分と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に歌の上手いとりを知りませんでした。

 だから、ずっとひとりで歌っていたのです。

 でも、もしかしたら、彼と一緒なら、ひとりよりもっと楽しく歌えるかもしれない。そう思いました。

 ことりは、初めて、自分以外に歌が上手いと認める相手を見つけたのです。


 ことりは、彼に向き直って言いました。


「もう一回、きみと一緒に歌ってもいい?今なら、さっきよりも上手く歌える気がするんだ。」


「いいよ。一回と言わず、何度でも。ぼくがここにいる限り、たくさんきみと歌いたいな。」


 ふたりは、綺麗な歌声を響かせ合います。

 ことりは、誰かと歌うのがこんなに楽しいことだったなんて、知りませんでした。

 ひとりで歌ってるだけでは、感じることができなかった気持ちです。


 ふたりは、来る日も来る日も、一緒に歌い続けました。

 そして、季節が変わろうとする頃には、大親友になっていました。


 彼は時期が来ると、仲間たちと一緒に飛び立っていきました。

 でも、彼と一緒に歌った思い出は、心に深く刻まれています。

 寂しい気持ちはあるけれど、離れていても、大親友であることに変わりはありませんでした。


 だから、ことりは今日も胸をはって歌います。

 きっと、彼もどこかで歌っている。

 それを感じながら、綺麗で伸びやかな声を響かせるのでした。


 おしまい。

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ことりのうた / 童話・朗読台本 よるん、 @4rn_L

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