みかんせい。

霧谷

✳✳✳

──「きみは幸せだったかな」、なんて。聞こうと思ったのは一度や二度の話じゃない。不安になるたびに口を衝いて出そうになる言葉を喉の奥へと引っ掛けて、繰り返し呑み込んで。舌の上に乗る苦い後悔を音にするのを拒んだ。


その質問がぼくたちの関係の最後になることが分かっていたから。怖くてこわくて堪らなかったから。喉の奥をがりがりと引っ掻く言葉を飲み干して、胃の中に収めて。夜ごとに吐き気に苛まれて静かに泣いたこともある。



ごめん、ごめん。何の取り柄もないぼくの傍に居させてごめん。ぼくは抜きん出て強くもないし優しくもない。聡明でもなければ整った姿形をしてるわけでもない。端の欠けたクッキーみたいに不完全な形をしてるんだ。欠けは埋まることはないし、何かで補うことも出来やしない。



不出来で美しくない存在。それがぼく。


ああ、終わりたくないなあ。終わらせたくないな。



でもいつかはぼくの手で終わらせないと、全部、ぜんぶ消えていく。きみを象ったすべてが、音もなく崩れて消えていく。そのあとには何も残らない。



きみの生きた証が、無くなる。



だとしたらその前にきみに聞かなければならない。どれだけの傷や痛みを負ったとしても、それが誰よりもきみの傍に居たぼくの使命だから。きみの生きた証を鮮やかに記すためにも、どうか、どうか。最後にぼくに答えてほしい。




「ぼくの筆のもとに生まれたきみは、幸せだったかな」


未完の物語にも、いつかは終止符を打たなければならない。



誰かの手で終幕を迎える前に、


願わくば、ぼくの手で。

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みかんせい。 霧谷 @168-nHHT

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