憧れのシチュエーション

右中桂示

憧れを叶えたくて

「好きです! 付き合ってください!」

「ごめんなさい」


 一世一代の告白はあっさり玉砕した。


 木上さん。

 常にクールで笑ったりしない不思議な雰囲気の女子。


 違うクラスで仲良くなるきっかけがなかったし、無謀な告白だったか。


「俺の何処がダメか教えてくれる?」

「別にダメじゃないよ? 月見君の事は前から気になってたし付き合うのも良いと思う」

「……じゃあなんで?」

「シチュエーションかな」


 確かに何のひねりもなかった。ドキドキする告白に憧れるのも分かる。


 なら俺にも脈はあるのか?


 期待を込めて聞いてみる。


「どんな告白に憧れてるの?」

「部活の全国大会優勝直後とか」

「ハードル高い」

「幼馴染から男女に意識が変わるやつとか」

「今からは無理」

「滅んだ世界で二人きりになった時とか」

「世界滅ぼさないで」

「夜景の見えるレストランもいいよね」

「高校生には無理。というかそれはプロポーズ」

「一番は結婚式に乱入して連れ去ってほしいかな」

「いやもう止めて! 無茶言って拒否されてるかと思ったけどボケたいだけだよね!?」


 我慢し切れず叫ぶ。

 だけど彼女は真顔のままじっと見ているだけ。

 こんな事言うなんて意外だ。そこもギャップで気になってしまうけど。


「だから一回やってみたいんだよね」

「ほら漫才の入りだよ」

「借金の為だからってこんな相手と結婚するなんて……」

「勝手に始めてるし」

「愛を誓いますか?」


 立ち位置を変えて神父の台詞までやると俺をじっと見てくる。


 続きをやれと?

 周りを確認。誰もいない。

 よし、覚悟を決めよう。


「その結婚待った!」


 全力でやったら顔が熱い。逃げたい。


 でも木上さんは満足してないのか手招きしていた。

 勢い任せに続けてやる。


「こんな結婚式逃げよう!」

「おい連れ戻せ。神父がいないと式の続きができない」

「神父かよ!」


 一度掴んだ手をブンッと振り払う。

 好きな女子の手を握った感慨とか全部吹き飛んだ。

 もう疲れた。


 でも木上さんは再び手を握ってきた。至近距離で真顔のまま告げてくる。


「ありがとう。お笑いが好きでね。漫才するのがずっと憧れだったの」

「でしょうね!」




 とりあえず俺達はコンビを組んで文化祭のステージを目指すことになった。


 あと付き合ってもいるらしい。

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憧れのシチュエーション 右中桂示 @miginaka

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