星に惹かれし者たち
Bamse_TKE
星に惹かれし者たち
たんと伝わる 昔の話
嘘か誠か 知らねども
昔々の 事なれば
誠の事と 聞かねばならぬ
昔々あるところに一羽の鳥が住んでいたそうです。その鳥の家族は皆美しい鳥でありましたのに、本人だけは容姿に恵まれず何ともみすぼらしい姿をしておりましたとか。
その鳥は夜を好んで飛んでおりました。夜の闇に紛れて飛ぶ姿は、昼間とは違い立派な鳥に見えたとのことでした。
その鳥は夜に羽を羽ばたかせるうちに、星に憧れるようになりました。夜空に輝く、美しい星に。お日様燦々と輝くところではみすぼらしい姿でも、夜空に舞う姿は美しくみえるのではないかと、鳥はいつしか星になりたいと願うようになりました。
鳥は天空に向かって飛び続けました。その両翼に渾身の力を込めて。鳥の目には星が少しも近づいているようには見えませんでした。しかしその時鳥はその口元に確かに美しい微笑みを浮かべていたといいます。
「私もスターになりたいなぁ。」
薄暗い夜の無人駅、ベンチの上に膝を折り曲げて腰掛け、制服姿の女子中学生が白い息を吐きながら呟きました。彼女は今夜も一人ぼっち、雨風を凌げる無人駅で、寒さに凍えながらスマホに魅入っていました。
彼女に帰る家が無いのでは有りません。帰っては行けないタイミングがあるのです。彼女の唯一と言って良い家族、それは自分を着飾ることで精一杯、娘のことになど気を回すことが出来ない母親でした。美しく自身を飾り立てた母親は、その姿を、その中身までを彼氏に晒すため、娘に外出を強いていました。母親の言いつけを守らずに二人の逢引を邪魔すると、どんな目に遭うのかは娘の彼女が一番良く知っています。
彼女はまた呟きました。
「あたしもスターになりたいなぁ。」
彼女が良く見るショート動画は、田舎で毒親と二人暮らし、そんな女の子が都会に出て星の如くに煌めく、スターになるお話です。彼女はその主人公に憧れ、いつしかその主人公に自分を重ねるようになりました。
そして彼女が15歳になったとき、彼女はショート動画の制作者に連絡を取り、夢への第一歩を踏み出しました。
「君は夜に輝くタイプだね。夜関係の人を紹介してもらった方がいいね。」
破瓜の痛みで動けないまま、ベッドの上で横たわっている彼女、その耳に響いた言葉です。声の主は全身真っ黒に日焼けしていて、屋内でもサングラスを外さず、裸になっても金色に輝くネックレスを外さない、不自然に白い歯が燦々と煌めく太陽の権化とも言うべき男でした。この男は太陽がそうするように彼女の身を焼き尽くすような辛苦を与えました。
15歳を迎えた彼女ショート動画の制作者に連絡して、すぐに実家を飛び出しました。彼女は早速芸能関係を名乗るこの男性を紹介してもらいました。芸能関係者とかいうこの色黒の男は自己紹介もそこそこに、彼女を日の高いうちからホテルへと連れ込み、彼女の純潔をいとも簡単に踏みにじりました。苦痛に苛まれ続ける彼女を気にすることもなく、さっさと男一人でホテルを後にしました。
それからも彼女がスターを夢見たショート動画、その製作者は色々な男を紹介してきました。初めての男と違い、お日様の匂いはしませんでしたが、代わりに陰鬱な夜の雰囲気を伴う人が多かったように彼女は感じていました。
行為の後は彼女の話など一顧だにせず、自分の話を雄弁に続ける男。全身を味わい尽くすように彼女を抱いた後に、若いだけの彼女には何年経ってもスターの道は遠いと諭す男。燃え上がるように熱い夜を交わした後、のぼせた頭を冷たいシャワーで冷やすようにと彼女の夢を諫める男。最中はあんな彼女を褒めちぎっていたのに、終わった後は彼女の素性と貧困をけなす男。沢山の男たちが彼女と夜を共にしました。ただし朝が来るまで一緒にいてくれる男は一人もおりませんでした。いつも彼女は都会の空でもくっきりと見える、北の空に浮かんだ五つ星を眺めながら一人寒空の中ホテルを後にしました。彼女に新しい男を紹介してくれる、もはや動画制作が本業とは思えない男ですが、彼女が一つ辛い夜を過ごすたび、その装いが華やかになっていくように彼女には見えました。
いつしか彼女はスターになるという目的を見失い、苦行に耐えた後に見える輝く五つ星を眺めることだけが彼女の希望となりました。ある日もおぞましい夜に耐えて、燦然と輝く五つ星を眺めながら、彼女は五つ星に向かって歩き始めました。寒さに彼女の息は白く凍り、寒さや霜が彼女の手足を突き刺しました。それでも彼女は歩みを止めませんでした。そして涙ぐんだ目で美しい五つ星を見上げました。もう彼女は自分が歩いているのか、止まっているのかもわからなくなっていました。ただ心だけは平穏で、寒さに切れた唇からは血が滲んでおりましたが、彼女は確かに笑っておりました。
それからしばらくたって彼女ははっきり目を開きました。そして彼女自身の体が今、青い美しい光になって、華やかな星になって静かに燃えているのを見ました。
すぐ隣には彼女が憧れた五つ星、その後ろには煌めく川のような星の群れが輝いています。そして彼女の星は燃えつづけました。今でもまだ燃えています。
「なんて素敵なお話・・・・・・。」
真っ暗な夜の公園、ひとりぼっちでブランコに乗る少女がスマホの灯りに照らし出されています。彼女が見たのはショート動画、スターに憧れた女の子が最後は星になったお話でした。
「私もお星さまになりたいなぁ。」
一人ブランコに乗る少女は呟いて、少女を感動させたショート動画の製作者を調べ始めました。その製作者がどんなつもりでショート動画を作っているかもわからずに。
星に惹かれし者たち Bamse_TKE @Bamse_the_knight-errant
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