【短編】銀色の魔法はやさしい世界でできている 『あこがれ』(KAC20252)

🎩鮎咲亜沙

【短編】銀色の魔法はやさしい世界でできている 『あこがれ』(KAC20252)

 私はアリシア、偉大なる森の魔女の弟子だ。

 いつか師のようなすごい魔女に私もなりたい。

 そう思うある日の事。


「アリシア、今日からこの本を読みなさい」


「魔法書ですか師匠?」


「⋯⋯いや違う魔法書ではない」


「じゃあなんの本?」


「ここでは学べない世の中の事を教えてくれる本だよ」


 その師の言葉にあるていど納得する私だった。


 たしかにこの魔の森の中で師と二人暮らしでは世の中の事など知る事はできない。


「わかりました、読んでみます」


 でもまあ⋯⋯興味はあるたしかに。

 こうして私は師の持ってきた本を読んでいくのだった。




 その本は物語だった。

 魔女とお姫様の物語だ。


『風車の魔女奥義、トリの降臨!』


 その本に出てくる風車の魔女の魔法がお姫様を救った。


『ありがとう風車の魔女!』


『ふ⋯⋯まったく見ちゃいられないね』


 ⋯⋯なにこれ?

 いやこれは本だ現実じゃない。

 だからこの魔法もただのこの本の作者の妄想⋯⋯。

 でも?


「この魔法は召喚魔法を応用すれば再現可能⋯⋯かな?」


 あらかじめ契約したトリを呼び出す魔法なら出来るかもしれない。


「これを練習しろ、ということなのかな?」


 私はこの本を読ませた師の思惑を想像する。

 ちょっと難しいがやって出来ないことはないはずだ。

 私にできると思うからこの課題を師は与えてくれたのだ。


「じゃあちょっとトリさんと契約してくるか」


 私は師を驚かせたくて黙って一人で森に入るのだった。




 そしてようやく見つけた目的のトリを!


「トリさんトリさん。 このクッキーあげるから私と契約して使い魔になってよ」


 逃げられた!


「⋯⋯逃がさないよ」


 逃げようとしたトリだったけど⋯⋯私から逃げられるとでも?


「捕まえた」


 こうして無理やりだったけど私はこのトリを使い魔にした。

 ⋯⋯そして。




「なんだいアリシア? 庭に来いだなんて」


 いぶかしげに私を見つめる師匠。


「師よご覧ください! 召喚魔法! 使い魔召喚! 『トリの降臨』!」


 私の魔法は見事成功した!


「⋯⋯驚いたね、もう召喚魔法を使えるとは」


「師の教えのたまものです」


 この程度の魔法で浮かれてはいけない、出来て当然なのだ。

 でも⋯⋯。


「よくやったねアリシア」


「⋯⋯うん」


 今日、私は少しだけ『あこがれ』に近づけた気がした。

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