とある勇者の最期

みちのあかり

あこがれ

 勇者様は俺の憧れの存在だった。


 欲にまみれた魔王を討つため、聖女・賢者・魔導士を仲間にし、つらい戦いに身を投じた勇者一行。


 孤児だった俺は、彼らの邪魔をしないようにひっそりと荷物運び、いわゆるポーターとして雇われていた。


 魔王を倒し英雄となった勇者一行は、カク・ヨーム神の紋章『トリ』の旗がひしめく街の中をパレードしている。

 その姿を見終わった後、「どこで死んでもこいつなら誰も悲しまないだろう」と討伐に連れていかれた俺は、わずかな謝礼を持たされスラム街に戻った。


 成長した孤児の扱いなんてそんなものだ。英雄の仲間入りなどできるものではない。

 選ばれし者たちと、金で雇われたその他大勢とで扱いが違うのは当然のこと。


 それでも俺は勇者を尊敬し、その姿に憧れを抱いていた。



 勇者と聖女は結婚した。

 賢者は政治の中心に収まった。

 魔導士は己の研究に没頭した。



 しかし人は変わるものだ。

 

 賢者は政治を通じて私利私欲に走った。

 魔導士は禁忌の魔法に手を出した。

 聖女は処女ではなくなり資格と能力を喪失した。失いつつある若さへの執着も激しくなっていった。

 勇者は……。


 勇者は過去の栄光と一度覚えた贅沢に捕らわれ、もらった報奨金も数年で使い果たした。残ったのは膨れ上がったプライドと借金。


 そして四人は新たな魔王とその仲間として降臨したのだ。


 前回の魔王も、その前の魔王も、隠されてはいたがいつも勇者のなれの果て。

 呪いでも掛かっているのではないだろうか。


 そのことを知らされ、今度は俺が勇者の立場になった。

 信じられるか? 荷物運びの孤児上がりの俺がだぜ。


 まあいい。憧れてた勇者一行は結局偶像アイドルでしかなかったんだ。

 偶像アイドルであるなら、実体などなんでもいいんだろう。

 与えられた役割は果たしてやる。


 俺は三人の仲間を与えられ、魔王討伐の旅に出た。



 長く苦しい旅の最後。憧れの元勇者一行の目前にいた。


「ははは。ポーターのお前が今の勇者か。ずいぶん偉くなったじゃないか」


 つまらなそうに魔王が嗤う。


「勇者一行は俺の憧れだった。なぜこんなことに」

「お前もなれば分かる。俺を倒せばな」



 戦いは長くは続かなかった。魔王一行は勝つ気がないような戦闘で俺たちと戦っていた。次々と倒れ、ついに魔王に止めを刺した。


「それでいい。遺言代わりに俺の最後の魔法を見せてやる。『トリの降臨』」


 魔法陣が浮かび上がり、まばゆい光があふれた。

 

「お前たちの未来を……見るがいいさ」


 魔王がこと切れ、巨大なまん丸いトリが現れた。


「我を呼び出したのはこやつらか。我が身の糧となれ」


 トリは元勇者一行を自分の身に取り込んだ。


「なるほど。こやつらの願いを叶えよう。見るがいい、おぬしらの未来を」


 壁に映像が映し出された。承認欲求に囚われ落ちぶれて行く俺たちの未来が。


「一度、強烈な光を浴びてしまったものは、いつまでも光を求めてしまう。ましてや自分自身が偶像アイドルであるならなおさらのこと。理想はすぐに手が届かなくなり、光を求めて闇に落ちる。勇者という偶像アイドルはその最たるものだ」


 歴代の、魔王に堕ちた勇者たちの記憶が映し出される。何だこれは。まるで呪いではないか。


偶像アイドルという光を人々は求める。そのために魔王が必要となるのは必然。役割の終わった勇者アイドルは闇に堕ちて光の餌食になる。それだけのことであろう。これを見せるのがあやつらの願い。確かに果たしたぞ」


 トリはそのまま消えていった。


 魔王、いや元勇者はどんな思いでこれを俺たちに見せようと思った?


 その思いに気が付いた時、おれは三人の仲間を斬った。


「なぜ?」

「勇者よ」

「それでいい」


 そう。呪いはここで断ち切らねばならない。


 俺は自分の首に聖剣を突き刺した。

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とある勇者の最期 みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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