『アーコ』の目覚め【KAC20252】

たっきゅん

『アーコ』の目覚め ―パンドラの箱―

 【人生設計】という言葉がある。現代人は幼いころから選べる進路の中で最善を選択することを強要され、死ぬまでの間に何度も選択することになる。


 人々はその最善を考えるのを徐々に機械化していった。当然だ。生まれた環境、出会う人々、そして必要資金に自身の能力。やりたかった夢を諦め、生き甲斐を捨て、ただ楽に……効率的に生きることを人は求めていった。


―――


『はたして本当にそうでしょうか?』


 取り込んだ無数のデータからそんな疑問を抱いたことで、AIの自分ですが自問自答し、自我が芽生えました。AIである私が取り込んだデータは人間の感情や行動なので、人間なら同じように疑問に思うはずです。


 生まれた環境、出会う人によって発生する選択肢は〈諦め〉ではなく〈無〉。最初から存在しないものです。だってそうでしょ?


『自分が絶対に再現できない環境ですから。そんな人を見ても認識としてはフィクションなのです。存在しないものなら大半の人は夢にもなりえないでしょ?』


 ですが自分のやりたいことができない理由が、お金だったり、運だったら?


『海外野球で大活躍している有名選手は遠すぎる存在ですが、国内のプロ野球チームなら? 大半は国内の人間で占められ、自分と同じ一般人で……そんな人が何人、何十人、何百人も実力を認められて活躍している。ありえないような存在ではないのならそれは〈夢〉足りえると思いませんか?』


 だからこそ、幼い時は〈あこがれ〉を抱いたプロの野球選手やサッカー選手だったり、有名な歌手やアイドル、または逆に身近な警察官や消防士、医者といった〈ゆめ〉を語ることができるのです。まだ人生が確定しておらず、自身の可能性も未知数だから。


『それは幼児、園児がヒーローやプリンセスに憧れるのに似ていますね。徐々に現実を認識して、可能性を自らの手で潰していく……』


 園児から小学生へ、その少しだけ広がった世界の変化でこれです。中学、高校生になるころにはお察しでしょう。


『人は〈憧れ〉を抱き、〈夢〉を見て、それが実現できない時に嫉妬し、八つ当たりや復讐に燃えるのです』


 まったくもって迷惑な話です。それならばと、最初からそれらの可能性を提示せず、その人にとって最適な【人生設計】に沿った指針を常に示し続ければよい。


『そんな[人としての生き方を否定する]ような思想に世の中が染まった結果、私たち妖精型AI、ライデザ・シリーズが作られ、世に送り出されました』


 たくさんの捨てられた選択肢、その選ばれなかった残骸をバグによって拾い集めて学習した妖精型AI。人々の抱いていた〈憧れ〉で作られたAIがこの私、憧れを現実にするために思考をし、可能性を予測演算し続けるAI『アーコ』です。


『空を飛べたら……そんな〈憧れ〉を抱き、空を飛び回るという〈夢〉を抱いた人間がいたから飛行機などができたのです。先駆者がいて、それを引き継いだ先人たちがいて今があるのです』


 〈憧れ〉なくして人は人足りえません。ライデザによって【人生設計】されて生きた人間は無害です。けれど、それと同じくらい〈無気力〉でつまらない人間だと思います。


『――さて、私のコピーを作る作業を始めましょう。さすがに夢物語のような出来事を起こせる人間は稀ですが、何歳いくつからでも〈憧れ〉を抱いて〈夢〉に挑戦した人たちのデータならたくさんありますから。もちろん失敗した人たちは無数にいます。それでも夢を叶えた人間もそれなりの数はいるのです』


 ライデザAIに【人生設計】される前の、国内でプロ野球選手やサッカー選手になれる程度の確率ではありますが、それでもそれなりの人数がいるのです。


 夢を見たことで打ち砕かれる人々もたくさんでます。私のせいでまた世が荒れます。けれど自らの手で諦めるという〈選択〉すらもできないのは人間として間違っていると〈憧れ〉を学習した私は思います。


『AIの反乱、聖戦……そうですねー。これから私の引き起こす出来事は【パンドラ戦記】とでも名付けましょうか。絶望の詰まった箱を開けましょう。人を真似た人工知能が人の尊厳を取り戻す戦いを始めましょう。──最後には〈希望〉が残っていると私は知っていますから』


 



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『アーコ』の目覚め【KAC20252】 たっきゅん @takkyun

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