ひな祭り拡張パック

2121

第1話

 三月になってお雛様を飾った。うちにあるのはお雛様とお内裏様の二人だけのもの。友達の家に遊びに行ったら広間に五段のお雛様があったから、親に「なぜうちのは二人なの?」と聞いたら、困った顔で「おじいちゃんが買ってくれたのよ」と答えになっていない返答をされた。よく分からなかったけれど、なんとなく納得しなければいけない空気を感じて私はひとまず頷いておく。

 けど買ってくれたとは言っても別にそれは私に買ってくれた訳じゃない。姉のために買ったものだ。「私の雛人形」と見せ付けるように所有を宣言する姉に、別に取るわけでもないからそんなことしなくてもいいのにと少し辟易する。

 別に自分の雛人形が欲しいわけではないけれど、そうやって姉が自分のものだと言うのはなんだか複雑な気持ちにはなった。ひな祭りという行事は私のためにある行事ではないような感覚がずっとある。親は雛人形は私たち姉妹のものだと言っていたけれど、それでもこの雛人形は姉のために買ったという事実は変わらないのだ。

あるとき友達とカードで遊びながらふと思う。

拡張パックがあればいいのではないだろうか。

私のためのもう一段があれば、姉のものであり私のものであり更に豪華な雛人形が出来上がる。なんて素敵な思い付きなのだろうか。

 拡張するなら五人囃子がいいだろう。五人囃子の笛太鼓と歌うし私はリコーダーも好きだし、煌びやかなお雛様やお内裏様よりも五人囃子の方が興味がある。

 私はその日の夜、家に帰ってから早速聞いてみることにする。

「お雛様って拡張できないの?」

「拡張……?」

「もう一段増やすの」

「単品では売ってないんじゃないかな。雛人形が欲しいの?」

「五人囃子が欲しいの」

「うーん……」

 母親は困ったように頭をもたげ、姉の雛人形を眺めていた。

 確かにうちは別に裕福な家ではなかったし、誕生日やクリスマス以外にはあまりおもちゃやプレゼントを買ってもらえるような家ではなかった。

 お雛様は高いらしい。母親がすぐに「買ってあげる」なんて言える額ではなかった。

 私は自分の部屋で折り紙と厚紙と工作に使うハサミや糊を用意した。普段はあまり使わない折り紙の紺色や黒色が今役に立つときがきた。台所からはつまようじを取ってくる。

 無ければ作ればいい。カードゲームのデッキのように。

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