妖精とひなまつり【KAC20251】
孤兎葉野 あや
妖精とひなまつり
ある日、花の香りに誘われて、人の住む場所にやって来た妖精は、見慣れないものを見付けました。
その花・・・桃や桜や橘が飾られた場所に、何段かに分かれて並んでいるのは、自分達と同じくらいの大きさの、命の気配がしない何か・・・
木のような匂いはしますが、綺麗なものを纏ったそれは、本当は生きているんじゃないかと、思ってしまうような姿です。
これは一体何だろう? 人間の近くにやって来るようになったのも、つい最近の彼女は、考えてみましたが、さっぱり分かりません。
そして、あれこれと思い悩むうちに、とても恐ろしいことが、頭に浮かんでしまいました。
『もしかして、あれは命を吸い取られた、妖精じゃないかしら・・・?』
そう思い始めると、ぞっとした気持ちになって、彼女は羽を広げ、一目散にそこを離れます。
どうしよう。もしも見付かったら、自分も同じ目に遭ってしまう? 怖くてたまりません。
・・・ぶるぶる震えながら、彼女が思い出したのは、そんなことは絶対にしないと信じられる、一人の人間と、いつも一緒にいる、力の強い妖精でした。
あの、仲良しの二人なら、きっと妖精達を助けてくれる。彼女はすぐに、人間の近くへ来るようになったきっかけでもある、色々な花が咲く花壇へと飛んでゆきます。
そして、運良く二人を見付けた彼女は、急いで見てきたものを伝えたのでした。
「シオリ、どういうこと!? そんな人間が居るというの!?」
「ええっ!? そんなの聞いたこともないよ。何かの間違いじゃ・・・待って、今の時期は・・・ねえ、その場所に案内してくれる? 危ないことがあったら、私達が守るから。」
どうやら、妖精と心を通わせることができる人間には、心当たりがあるようです。
あの場所へ行くのは、怖い気持ちもありましたが、優しいその人の言葉を信じて、彼女は二人をそこへ連れてゆきました。
「ああ、やっぱり・・・ひな祭りだよ。」
「ひなまつり・・・また何かのお祭りかしら? 人間はそういうの、好きよねえ。」
そうして、さっきの場所へ行けば・・・笑いながら話し始める、仲良しの二人。どうやら、本当に大丈夫そうです。
そして、妖精と仲良しの人間は、教えてくれました。あれは、命を抜き取られた妖精などではなくて、木や土で作られた人形。
周りのお花や飾りも含めて、子供達が元気に育ちますように・・・と願う意味があるそうです。
「もう、人騒がせなんだから。でも、おかげで面白いものが見られたわ。」
その人といつも一緒にいる妖精は、彼女を少しだけ叱って、そしてみんなで笑いました。
「ねえ、ルル。あれは妖精の編隊飛行・・・じゃないよね? もしかして・・・」
「ええ、あの『ひなまつり』とやらの噂が広がって、真似してるみたいよ。
あら・・・? シオリと私に、一番上の目立つ役を、やってほしいみたいね。」
「ええ・・・? 私だけサイズが違いすぎるけど・・・でも、ルルと一緒となら、いいか。」
「ふふっ。たまには、こういう遊びも良いわね。」
次の日、色々な花が咲く花壇には、楽しそうに並んで宙に浮かぶ妖精達と、心を通わせる人間の姿があったのでした。
妖精とひなまつり【KAC20251】 孤兎葉野 あや @mizumori_aya
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