ひなまつりのあとで

高山小石

ひなまつりのあとで

「あーあ。今年も出されなかったわねぇ」


 豪奢な十二単じゅうにひとえまと女雛めびなが、ため息じりにこぼした。


「そう言うわりに、嫌そうに聞こえないのは、気のせいかな?」


 うすい保護紙ごしに、男雛おびなが面白そうに声を返した。


「あら。だって、ここであなたと二人きりなのも悪くないじゃない?」


「そうだね。あの子たちが幼すぎるときは、いつ壊されちゃうかとヒヤヒヤしたものだ」


「だんだん丁寧に扱ってくれるようになったわよね」


「そのうち見てもくれなくなったけど、飾ってはくれてたな」


「季節物ですもの」


「きっと外は春なんだろうね。ふふ。外に連れ出されたときは驚いたなぁ」


「ほんとによ。叱られてからは、本物の桃の花を挿してくれたこともあったわね」


「かわいい声でなんども歌ってくれたよね」


「やぁね。思い出したら、泣けてきちゃったじゃない」


「楽しかった」


「……そうね。楽しかったわ」


 男雛と女雛は、この家の子たちをずっと見守ってきたけれど、そろそろ自分たちはお役御免なのだろうとわかっていた。


 十分に役目は果たしたので、男雛と女雛にいはない。たまに目覚めて、こんな風にぽつりぽつりと二人で話す日々もいいもので、二人は余生を穏やかに過ごしていた。


「ばぁちゃんの遺言にあったのって、コレ?」

「うっわ、骨董品じゃん! コレ、動かして大丈夫なの?」


 賑やかな声に、静かな日は突然やぶられた。ぐんっと二人の入った箱が持ち上げられる。


 ついに捨てられる日が来た、と男雛と女雛は覚悟したのだが。



「ミーシャ、あなたの曽祖母様から贈り物よ」


「うわぁ! かわいいおにんぎょう!」


「すごいな。ウィッグにキモノ。替えの服もこんなにある」


 朽ち欠けていた二人は、今はすっかり塗り直され補強され、おすわりできる着せ替え人形に生まれ変わっていた。


 顔もすっかり変わり、二人が再会したとき、お互い誰だかわからなかったくらいだ。


 ミーシャの母が二人を入れて持ち運べるクーハンを用意してくれたので、ひなまつり関係なく二人はミーシャと一緒にあちこちに連れ出された。


「私たちが海を渡るなんて思わなかったわねぇ」


「また、こんな風にピクニックができるともね」


「ヒメはここ。トノはここ。はい、お花のケーキですよ」


 野原に広げられた敷物の上に座るカントリー風の衣装の2人の視界には、野の花が咲き乱れていた。


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ひなまつりのあとで 高山小石 @takayama_koishi

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