ユルサナイ
山田あとり
だって疲れたの
――もうずっと、わたしは婚礼の宴をくりかえしている。
美しい衣に身をつつみ。おなじように美々しくよそおったあなたと並び。雅な楽の音と桃の花の香りがあたりにただよう。
この佳き春の日は、うらうらと永遠につづくかのように幸せだ。
そして――そのとおり、そこからわたしは一歩も前に進めなかった。
宴は果てず、夫婦となったにもかかわらずわたしたちが閨で歓びを交わすことはない。嫁いだはずのわたしは微笑むよりほかに何も為していなかった。
わたしは幾度この婚礼をくり返しただろう。
初めて宴の席につかされた時は、何もうたがっていなかった。でも部屋が暗くなったのに宴が終わらず、首をかしげそうになった。動けなかったけれど。
それが三十夜ほどもつづいた。
わけがわからなくていいかげん心がおかしくなると思った後に、わたしは何故か気をうしなった。
しかしふと目がさめると、また同じことが起こるのだ。
宴のしたくがなされ、延々ひと月も終わらない婚礼の席につかされる。
そして不思議なことがあった。
目がさめるたびに、婚礼をながめて喜ぶ一人の女の子が姿を変えていくのだった。
わたしたちは何も変わらないのに、その娘だけは何故かすくすくと育つ。
「あの娘さんは、とうとう大人のようになりましたわね」
十何回めかに目をさました時、わたしは隣のひとに話しかけた。
夫となるべきなのに、ずっと触れることもなく過ごしてきたひと。それでもわたしは、この凛々しく優雅なひとが自分の夫なのを嬉しく思い、たびたび横目でながめていた。
「――愛らしい赤子だったものが、いつのまにやら。闊達ながら美しい娘に育ったものよ」
夫の言った言葉にわたしは相槌をうてなかった。「美しい」というのには賛成できない。脚の見える服を着てだらしなくペタリと座るなど言語道断のふるまいだ。
だが夫の横顔は、じっとりとその娘に向けられている。娘が立ち上がり出ていくのを、目だけで追うのがわかった。むっちりした脚や、つんと突き出た胸。十二単に包まれたわたしの体にないもの。
夜をすごせないわたしには向けないそんなまなざしで、心がこおりついたような気がした。つい鋭くとがめた。
「――あのような、はしたない娘をお好みですか」
「なにを言う。われらはこの宴から抜け出すことあたわぬ身。あの娘と何ができると?」
うすら笑う夫の横顔は、やはり好ましい。でもわたしは怒りにふるえた。
――婚礼も済まぬうちから、よそのおなごにうつつをぬかすとは!
このひとの横顔が好きで好きで好きで、それでいいと思っていた。並んでいられる我が身を寿いでいた。
でもわたしは、もっとこのひとと向き合うべきだったのかもしれない。真正面から。
ユルサナイユルサナイユルサナイユルセナイ。
念じていたら、宴の間がカタカタと揺れはじめた。
菱餅がくずれ、ぼんぼりが倒れる。その中で何かがパチィッといい、火花が散った。
それはわたしの心だ。
小さくあがった嫉妬の炎は、宴を燃やしていく。参列していた人々を順になめ、上段へと。
「なんと! く、動けぬ……!」
みな為すすべもない。それでいい。わたしとあなたは炎にのまれた。
――もう終わりにいたしましょう。こんなくだらない人形の宴など。
疲れたのです。
果てることないくり返しにも、あなたの心にも。
ユルサナイ 山田あとり @yamadatori
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