「人」

kiwa

第1話

部屋の天井に向かって、両足を持ち上げる。

寝そべっているだけで、私はただ退屈していた。

「ゆかりー、御飯できたよ」

優しいお母さんがいつもそばにいてくれている。それだけで幸せ。


食事を済ませた後、シャワーを浴びる。

それだけで、どこへでも行けるような気分がする。

これからも、この先もずっと。


外に出ると、雨が降っていた。

「美玖、一緒に行こう」

猫が私に声をかける。

「いつから離せるようになったの」

首をかしげながら聞いてみる。そしたら猫は、私の仕草を真似る。

「わからない」

二人とも首をかしげて、おかしな光景になっているんだろうなって。


いつもの祠に着く。

毎日、欠かさず私の首にぶら下がっている白色の糸を、巻き付ける。


雨の音でかき消されていく私たちの存在は、あまりにも微塵だった。


それでも空は青く晴れていて、水を降ろした雲は向こうへ過ぎ去っていた。

「お祈りいたします。この世界から何も奪わないで」

白色の糸が、1㎝程微かに宙に浮く。


誰も知らなかったはずの私たちの存在に、意味がある瞬間だった。

「ほら、帰ろ」

猫が鳴く。私はそう呟いた。


家に帰って、御飯を食べる。

ベッドに潜り込むように入る。

「怖い」

未来がわからないことに、すごく恐怖を感じる。

世界をコントロールできないことはわかってる。でも、全員が死ぬ。

死ぬときの痛みを、必ず体感しないといけない瞬間が、いずれ来る。


うずくまって、何気ない日々を思い出す。

死を忘れることが目的で、私たちは生きているのかもしれない。

逆説的な現実に、目を固く閉じる。目じりに皺ができる。


今日も神様に願ったはずなのに。





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「人」 kiwa @Black4949

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