KAC20251 桜舞う丘で、墓標は静に時を刻む

久遠 れんり

それは静に……

「お疲れ」

 それは、ある学校で始まった悲劇。


 良くある虐め。

 だが、その被害者である僕は、我慢が出来ずに、それを始めてしまった。


 単純に、彼をぱしりにして来たクラスメイト。

 罰ゲームと言って、僕の心に悲しみを刻み込んだ女達。


 無関心だった教師達。




 ―― この町には、今は閉鎖されている公園がある。

 元々は、遊園地の一角で、春には見事な桜が咲く場所。そこに建っている白い展望台から見る景色と、周囲の桜が人気のスポットだった。


 それは時が過ぎゆき、人が来ない丘で墓標のように建っていた。



 ある年、流石に危険だという事で、順に施設が壊されていく。


 何年かぶりに、塔の中に光と風が吹き込む。

 その時、丁度雲間から薄明光線はくめいこうせんが降り注ぎ、神の使いである、トリの降臨がごとく神々しい光が周囲を照らした。


 その光に照らされて、この時期にぴったりな、ひな壇が姿を見せた。

 そう、ひなまつりと言えば段飾り。


 最近はすっかり見なくなったものだが、塔内の螺旋階段に見事に飾られていた。

 ただ惜しむらくは、時が経ち、おそらく赤い色だった敷折織しきおりおりは黒くなり、人形達も肉がそげ…… すでに、誰が誰やら判断は付かない。





 ―― その日私は、塾の帰りに息抜きをしたくなり、ふと一人で違う道へ。


 明日は、大学の試験。

 午前中の小論文は、多分大丈夫。

 個別テストが嫌で、あの大学を選んだ。だけど、緊張するものはする。

「ふふっ。らしくない」


 自分の行動に笑いが出る。

 こんなタイプじゃないはず。頑張れ私。


 やはり少し、プレッシャーを感じているのだろう。

「バカね。大丈夫」

 つい言葉にする。


 だけど、そこへ向かう神社脇で私の記憶が途切れた。


 次に目が覚めたとき、私は跳び箱のようなものに腹ばいで縛り付けられていた。

 口は何か噛ませられていて、閉じられない。


「目が覚めたか。やはり意識が無いとつまらない」

 言われて感じた、違和感と痛み。

「んんっー」

 暴れるが、拘束は取れない。


「僕は君の告白に答えたじゃないか。恋人同士だろう?」

 彼は……

 違うの、喋りたいのに喋れない。

「んんんっー」

 数日後、私は意識を喪失。


 そして、それは続く……


「お前はぁ……」


「今なら許してやる……」


 君達から受け取った、僕の辛さを返してあげよう……

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KAC20251 桜舞う丘で、墓標は静に時を刻む 久遠 れんり @recmiya

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