第59話 新たな生活のはじまり

「――書類上のことなのでお気になさらず、国王さまっ――」


 クラリス王女のネックレスから小声でアリエッタの声が聴こえてきた。同時にシルビアさんが咳をする。いや、書類上って……。それに今の声絶対にエルフさんたちに聴こえてるし。


「えーっと、みんなの名前もあるのか……、はっ? よめ?」


「それについてはこちらの国の文化であると伺っております。なんでもほぼ正室なれども複数人の籍を認め、どれも上下の差はないと。一夫多妻の形式をとる国家は西方にもありますがすべてを同列に扱うとは、これも英雄殿の器の大きさと申しますか……。私たちもこのことについては検討を重ねました結果、女王陛下はいたくこのことを気に入られまして……」


「――書類上の……――」


 そんな小声のアリエッタ先生の名前もある。シルビアさん、クラリスさん、カーリー、おいおいルカ姉とニア姉の名前もある。はあ? シズクさん、シアさん、それにリイファさんまで……。これは何の連名なんだよ。まあ、形だけだし、いいか。


「あっ」


 ずっと沈黙していた代表エルフさんが書類を奪い取り自前の羽根ペンでなにやら書き込んでいる。相互の書類二枚ともに署名している。


「わ、私もお仲間に加わらせていただきますわ!」


 えっと、シファニエン・オリエネスさん。シファさんとお呼びすればいいかな。


「あーっ、対抗策がこうも簡単に打ち破られるとは……」


 ん? アリエッタのはっきりした声が聴こえた。対抗策って? いやいや書類上の……。何? これって俺の嫁になるってこと? さっと書類を返すエルフ代表シファさん。ちょっと危険な何かを感じた俺はなんだかんだと言って自分の署名から逃れようとしたが、結局部屋にいた女子全員に押さえつけられて書かされてしまった。なんで俺のビリビリが発動しなかった。こんな署名に効力なんてと思ったが、アリエッタ先生によると魔法による何らかの力が働いているらしく公文書として問題なく通用するようだ。もっと大事な項目もあったと思われるがそんなものも確認せずにすべては合意に至ったことになってしまったらしい。もう、どうなっても知らないし。


「私たちの方はシファニエンさまの嫁ぎ先が無事決まれば、何も言うことはございません」


 シファさんは俯いてもじもじしていらっしゃるが、側近の二人は仕事を成し遂げた達成感のようなものでいい顔をしていた。


「ああ、女王陛下より姫の婿さまへの個人的なお願いごとがございました」


 これは別にいいんですけどねって感じで、できる側近さん二人は羊皮紙の巻物を机の前に広げていく。ここで無理難題的なのを放り込んでくるのが政治的な何かだろうか。俺は緊張しながらその紙に目を落とす。


「ああ……、なるほど」


 それは本当によくできた似顔絵だった。おそらく大昔には写真技術のようなものもあったのだろうが、手書き風のそれは魔法によるものなのか本人たちとそっくりであった。下にある数字は懸賞金なのだろう単位がこっちの通貨とは違うようなのでどれくらいなのかは正直分からないが、安くはないだろうことは読み取れた。


「この世界を追放した罪人たちがこの地にいたということは把握しております。ここにはありませんが協力を申し出ながら逃亡したトビアス、マリーの二名についても懸賞首として再告知を行います。どれもこの世界を危機に陥れた大罪人たち。国王陛下にもぜひご協力いただき、この世界へ貢献しようという姿勢を見たいという我が女王陛下の期待に応えていただければより国際的な地位も高まるものであると考えます」


 ほう。賞金首って物語の中だけだと思ってたけどあるんだな。どれどれ、みんなどれくらいの金額をつけられているのか。ギヨームさんって意外と小物扱い? 何か知らない顔の人たちと変わんないな。ガーディアンって何人もいたんだったか。結構いるもんだね。おーっ、エル兄すごい。桁が違うぜ。なんだろ悪者なのに男心をくすぐるこの感じは……。ダントツでしょうね……。はっ!? ちょ、ちょっとカーリーさん、あんな何やったらこんな……。俺の頭の上に乗っかる破壊神さまはエル兄よりも桁が二つ上であった。


「それでは私たちはこれで失礼いたします。では、姫のことどうぞ末永くよろしくです!」


 側近さんはさっと立ち上がると、書類を受け取ると振り返りもせずに部屋を出ていってしまった。残されたのは姫エルフさん。えっと、こういう感じなのエルフさんて。もっと何かさ。


「わ、私は問題ありません。お側に置いていただけるのであればどのような扱いを受けようとも。たとえこの地が人族至上の過酷な環境であろうとも、私のあ、愛は……、あっ? ええっ?」


 何か決意表明のようなものをしようとしていたシファさんは、アリエッタ・ネックレスをつけたクラリス王女とシルビアさんに脇を抱えられ部屋の外へと連行されてしまった。えっと、これは大丈夫なのだろうか。いきなり国際問題とかないよね。


 そんなにぎやかな感じで新しい国での俺達の生活が始まったのであった。




 了


コンテスト用長編作品ですので、一旦ここで完結とさせていただきます。

まだまだお話の続きは作者の頭の中にありますので、機会がありましたらまた、ということで。


みなさまにお読みいただいたこと、そして応援が作者の執筆活動のエネルギーです。


最後までお読みいただきありがとうございました!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界再構築 Re:construction ~底辺無自覚最強系少年は世界を変える~ 卯月二一 @uduki21uduki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ