#3

 とりあえず、街の案内所で聞いた風車小屋を目指すことにした。右本さん達が進んだ分岐とはそこで合流するらしい。私の進んだ道の方が近道ショートカットになっていたということだから、待っていれば会えるだろう。

 あーなんて弱い。なんて中途半端な人間なんだろう、私は。人の輪に入れないくせに、一人で生きるほど強くもない。

 心なしか向かう足取りも重い。自ら皆の元から離れていったのに、受け入れてもらえるだろうか。ちょっと靴紐を結んでいたら皆を見失っちゃって。そんな言い訳は苦しいか。なら、どう言えばいいだろう。こんな風にてきとうな言い訳ばかり考えているから、だめなのかもしれない。

 風車小屋に近付くと、知った声が聞こえた。

「やーでも車が手に入ってよかったね」

「本当。運転免許持っててよかった。これで一気に行動範囲が広くなる」

 視線を向けると、風車小屋の隣に黄色い軽自動車が止まっている。

 やった、車があれば雨風がしのげるし、獣に襲われる心配も減る。

「一体どこにいるんだろうね」

「うん。早く見つけて、さっさと帰りたいね」

 彼女らの言葉を聞くうちに、風車小屋に向かう私の足は止まる。そっと木の陰に身を隠す。

 ちがう。彼女らが待っているのは、探しているのは、私ではない。

 彼女らの五人目の幼馴染で、行方不明になってしまった夏彦くん。

 そりゃあそうだ、そもそも彼女らは夏彦くんを探しにここへ来たのだから。私は勝手にその捜索にくっついてきただけだ。

 軽自動車には、大人がぎゅうぎゅう詰めで五人までしか座れない。――四人の幼馴染と、夏彦くん。

 席は五つしかない。

 私は一緒に帰れない。

 ……はあ。

 私は踵を返して、風車小屋から離れた。

 彼女らより先に夏彦くんを見つけよう。そして……。

 だって仕方ない。席は五つしかないのだから。

「居場所は自分で作るものだ」頭の中で声がする。そうだ、自分の席は、自分で確保しなければ。

 私は、藪の中をがむしゃらに進んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

亜はイのまえ 香久山 ゆみ @kaguyamayumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ