第13話
晩餐会が終わった後、マリアーヌとラインハルトは王城の客間にいた。
「本日の功労者だからな。城でゆっくりしていきなさい。明日は祝いの席を設けよう」
国王陛下にそう言われては断れない。
二人は最高級のおもてなしを受け、一息ついていた。
「お疲れさまでした。まさか内密なお仕事がカッセル伯爵の調査だったなんて驚きました」
「伯爵は以前、陛下の姪に手を出そうとしたんだ。それでずっと目をつけられていた」
(元夫ながら愚かすぎる)
マリアーヌは開いた口が塞がらなかった。
「それより、誤解しないでほしい」
オレンジトパーズの瞳が、まっすぐマリアーヌを見つめている。
マリアーヌは首を傾げた。
「何の話ですか?」
「俺はマリアーヌの優しさに触れたから、婚約を申し出たんだ。決してカッセル伯爵とのつながりが目当てだったわけじゃない。もちろん役に立ったのは事実だが……」
ゆっくりと、重々しく言われるので、マリアーヌは思わず笑ってしまった。
「そんな事分かってますよ。ラインハルト様は、親切で真心をお持ちの優しい方です」
「そ、そうか」
ふと顔を逸らせた彼の耳がほんのりと赤く色づいている。
マリアーヌは堪らない気持ちになった。
「ラインハルト様、私と結婚してくださってありがとうございます。……愛していますわ」
「先に言われてしまったな。俺も愛している」
そうして二人はそっと口づけを交わした。
数ヶ月後、マリアーヌはカッセルの屋敷にいた。
正確にはカッセルの屋敷だった場所だが。
「奥様! お久しぶりです」
「皆久しぶりね」
そこにはアンを始めとする懐かしい顔が並んでいた。
「今日から貴方達には私の下で働いてもらうわ。改めて、よろしくね」
「はい、奥様」
爵位を剥奪されたシャルル・カッセルがこの屋敷を売りに出したのだ。
それをマリアーヌが買い取ったという訳だ。
「ここを改装して健康食品を提供しようと思うの。二階はカフェにして、商品を食べられるようにするわ。販売ルートも確保してるんだから」
マリアーヌはカッセルの屋敷で働いていた使用人を全員再雇用し、この店で働いてもらうことにしたのだ。
父とは絶縁状態となっている。
風の噂によると、娘を邪険にしたことについては反省しているらしい。
(向こうから直接謝罪されるまで、許す気はないわ)
「マリアーヌ、お待たせ。今日はセンシアの市場に行くのだろう? そろそろ出発しないと」
「ラインハルト様! もうそんな時間ですか? ……じゃあ皆、後はよろしくね」
マリアーヌはラインハルトとともに馬車に乗り込んだ。
「マリアーヌ、今日はアルムの実を買いたい」
「ふふふ、私もそう思っていたところです」
二人は仲睦まじく、社交界でも憧れの夫婦となっていた。
いつしかラインハルトが冷酷公爵だという噂も減っていくのだった。
【完】
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夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました 香木陽灯 @moso_ko
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