第12話

 国王陛下直々に不正を追及するのは異例のことだった。


「伯爵、此度の愚行について弁明の機会をやろう」

「ご、誤解でございます! わたくしシャルルはそのようなこと決してっ……!」

「わたしが聞きたいのはそんな言葉ではない。お前が納税額を誤魔化していることについて聞いているんだ。お前の収益が下がっているのは確かだが、国への申告書にはさらに額を下げて記入しているな」


 国王の言葉にシャルルは「何故それを……」と小さく呟いた。


「その割には随分と羽振りが良いな。高級娼館で毎夜遊んでいるのは周知の事実。だからベイガー公爵に調べさせたのだ」

「こ、公爵に? クソッ……!」


 シャルルがラインハルトを睨む。

 しかしラインハルトは微笑みを返した。


「娼婦というのは口が軽い。おかげですぐに調べる事が出来た。それに役人を抱え込んで申告書の不正を誤魔化していたようだが、詰めが甘いな。こんなメモの管理もまともに出来ないのか」


(あっ、あのメモ……!)


 ラインハルトがヒラヒラと見せびらかしているのは、マリアーヌの本に挟まっていたメモだった。


「それをどこで……!」

「愛しい妻の本の中で。これのおかげで役人もあっさり口を割ってくれた」


 シャルルは憎々しげにマリアーヌを睨む。


「お前のせいで!」

「我が妻を愚弄する気か?」


 ラインハルトの声が低くなる。


「お前は伯爵家の帳簿を一度でも見たことがあるか? 彼女が身を削ってカッセル家を支えていたのに、お前がそれを全て無駄にしたのだ。彼女を大切にしていれば、カッセル家が地に落ちることはなかった」

「ふんっ、中古の女を拾った分際で偉そうに……! こいつはな、女としての価値がないから捨てたんだ!」


 シャルルがマリアーヌを指さした。

 その瞬間――。


「ぎゃああああ!」


 シャルルが叫び声をあげてその場に座り込んだ。

 ラインハルトが彼の指を折り曲げたのだ。

 そして間髪を入れずに、彼のポケットから革袋を取り出した。


「さて、こちらも回収させいただこうか。今日、役人に渡すための賄賂と指示書。逃れられぬ証拠だ」


 涼しい顔をしたラインハルトが、革袋を国王に手渡す。

 中身を確認した国王は、鋭い眼差しでシャルルを睨みつけた。


「シャルル・カッセル! 本日をもって爵位を剥奪する」

「そ、そんな……」


 シャルルは必死の形相で辺りを見渡す。

 誰も彼を助けようとはしなかった。


(哀れね。女癖が悪いだけならまだしも、悪事に手を染めるなんて)


 ふとマリアーヌはシャルルと目が合った。

 その途端、シャルルは重たい身体を引きずりながらマリアーヌの方へ近づいてくる。


「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」


 元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。


「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」

「そ、そんな……」


 そのままシャルルは衛兵に連れられた。

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