なんてったってアイドル

千瑛路音

第1話

アイドルとは孤高ココウの存在でなくてはならない。

誰にも触れられないほどの高みに登るからこそ、その身の安全は守られるからだ。


完全に安全だからこそその能力を自由に振るえる、そして、見ている人すべてにその内包するものを感動していただけるわけだ。


勿論モチロン、その代償ダイショウとして孤独コドクマヌガれないだろう。ほぼ理解者はいないと言っても過言ではないのではないだろうか。ただ、その苦しみを味わってもなお、そこから発生する現象はファンにとって素晴らしい時間となる。


「なんてたってアーイドールッ!」

ワーと歓声が上がる。


熱気に包まれた会場は、テレビからは伝わらない。会場に行ってみなければその熱さは分からないのだ。しかし、映像を見るだけで盛り上がっているのは分かる。

白、赤、青、黄色。様々なサリウムが何かいる暗闇の中数えきれないほどウゴメいている。その一つ一つに本当は意思があり自由がある。しかし、今はそんなものは存在していない。あるのは孤高の存在の認識と条件反射のみなのである。体内のアドネナリンは野生の頃からの生物としての機能を維持し続ける肉体へと流れ込み、そして野生は噴出フンシュツする。学校や職場での現実はここには無い。タダ、本能がサリウムを振れと命令するのだ。そして、世界はステージへと集約される。


「なんてたってアーイドール、素敵なアイドル。」

(皆の視線を感じる。)

何万回と練習してきた動きは、体が覚えてくれている。意識せずとも踊れるのだ。

苦しさを乗り越えてきたという自信もある。だが、今ここにあるのは・・・。





(うん?裏方の方が妙に騒がしいな。)

こんなに乗れているステージは初めてなのに。邪魔しないで。と言ってやりたかった。

「キャーッ!」突然悲鳴が上がる。

思わず本当に舌打ちをしたくなった。(何やってんだ。)


しかし、ステージを止めるわけにはいかない。これを止めるのはアイドルにとって致命傷だ。もう二度とステージには上がれなくなるだろう。その判断がその突然の異常を黙殺モクサツしてしまう。


ゆっくりと何かが近づいてきた。しかし、会場はいつも通り盛り上がっている。何も問題ない。


異常な分泌のアドレナリンの為、その舞台に現れた異常な物体を認識することが皆にはできなかったのかもしれない。あってはいけないものは無いのだ。だから誰もその物体があることを認めなかった。ステージは続いていく。   






「「なんてたてアイドールっなんてたてアーイドールっ」」声が重なる。(えっ!)


突然の登場。

彼女は自分とライバル視されていた子だ。(なんだこれは)あまりの事にびっくりして頭が真っ白になったが、歌は無意識にでも歌い続ける事が出来た。


(このまま、ステージを台無しにするわけにはいかない、歌い続けるしかない。)


続くステージ。はじめのうちは戸惑っていた観客もだんだんこの突然のサプライズに興が乗ってきたようだ。波の様に熱気がうねりを上げる。ファン層が分かれているためどちらを応援するべきかで揺れ動く気持ちが熱で伝わってくる。


後半になるに従ってだんだん声に圧倒されつつあることに気付く。(負けるわけにはいかない。あたしのステージだ!)生来の負けん気でこの難所を乗り切ろうとする。焦る気持ち。


せめぎあいの声が絶妙なハーモニーとなって観客を魅了する。


歌が唐突に終わる。静寂が会場を包む。そして、「キャー」という歓声が爆発した。


しかし、自分の呼吸音しか聞こえなかった。まるで静寂の中にいるかのように。静かに深々と挨拶をする。相手の顔を見合うとどっと笑いが込み上げてきた。「このやろうぅっ!」つい乱暴な口調で相手の子を威嚇してしまった。笑いながらその子は手を振って、ステージを後にする。自分も一足遅れて手を振りながらステージを後にした。背中から観客の拍手が鳴りやまず、ステージのライトが消えていった。                      おわり



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なんてったってアイドル 千瑛路音 @cheroone

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