怪獣のこども。

雨世界

1 ねえ、どこにいるの? 隠れてないで出ておいで。

 怪獣のこども。


 ねえ、どこにいるの? 隠れてないで出ておいで。


 のんちゃんは小さなころからずっと恥ずかしがり屋で、家にいるときはずっと怪獣のぬいぐるみみたいな全身がすっぽりとはいる変な服を着ていた。(お母さんがのんちゃんのために、いろいろと工夫をしているときに、のんちゃんがすごくその変な服を気に入ったのだった)

 初めて会う人とは、おしゃべりができなかったし、いつもどこかによく隠れていた。

 自分でお絵描きした画用紙に書いた顔で、自分の本当の顔をよく隠してお話をしていた。

 のんちゃんはあんまり自分の顔が好きじゃなかったから、お絵描きで描く顔は自分ににている顔じゃなくて、自分で空想した理想の綺麗な顔だった。(のんちゃんは絵がへただったから、変な絵だったけど、綺麗な顔を描いていることはわかった)

 でも不思議とそののんちゃんの描く顔の絵には魅力があった。

 そののんちゃんの絵の(あるいはらくがきの)魅力に気がついたのはお母さんともう一人、幼馴染の男の子、みーくんだった。

「のん。お前。絵の才能あるよ。将来は画家になれるよ。きっとな」とのんちゃんと一緒に遊んでいるときに、(みーくんはのんちゃんが隠れないで一緒にいることのできる数少ない一人だった)

 のんちゃんはこんな感じだから、小学校に行けなくなって不登校になった。

 中学校にも、高校にも行かなかった。

 のんちゃんはその間、ずっと家で絵ばっかりを描いていた。

 絵を描くことは救いだった。

 のんちゃんは自分を助けるために、必死に毎日、毎日絵を描いていた。

 春も夏も秋も冬も、描いていた。

 気持ちのいい晴れた日も、太陽が眩しくて、とっても暑い日も、月の綺麗な夜も、雪の降っている真っ白な日も、ずっとずっと絵を描いていた。

 二十歳になって、大人になるとのんちゃんは美術大学に合格して、大学に行くことになった。

 大学では変な人たちばっかりだったので、なんとか大学には通うことができた。(学園祭では、久しぶりに怪獣の被り物をした。とっても楽しかった)そこで先生に絵を褒められた。

 美術大学を卒業して、のんちゃんは画家になった。

 それから少しして、のんちゃんはみーくんと結婚をすることになった。

 みーくんはずっとのんちゃんのそばにいてくれた。(みーくんが小学生のときも、中学生のときも、高校生のときも、ずっと嫌いにならないで、一緒にいてくれた)

 みーくんとはみーくんが高校生のときにお付き合いをすることになった。

 みーくんはずっとのんちゃんの絵を褒めてくれた。(ありがとう)

 結婚式はあんまりにも恥ずかしかったので、のんちゃんは自分の描いた絵でずっと自分の顔を隠していた。

 みーくんはそんなのんちゃんのことを怒ったり、恥ずかしがったりしなかった。(みーくんのお友達はみんな笑っていたけど)

「のん。隠れてないで出ておいて」

 とみーくんが笑っていった。

「うん。みーくん」とのんちゃんが隠していた自分の似顔絵の画用紙(実写みたいに上手だった)の後ろからその顔を出して笑った。

 それはまるで魔法のようだった。

 みーくんに出ておいで、と言ってもらえると、のんちゃんは隠れているところから出て行くことができた。

 みーくんと出会えて、みーくんに見つけてもらって、のんちゃんはとっても幸せだった。

 おーい。隠れてないで、出ておいて。

 とのんちゃんは怪獣のぬいぐるみみたいな変な服を着ているずっと昔の、部屋のすみっこの暗がりで体育座りをして、声を出さないで泣いている、画用紙に書いたへたな顔の絵で自分の本当の顔を隠している、小さな女の子に声をかけた。

 女の子はこっちを向いた。

 そのないている小さな女の子をのんちゃんはそっと優しく抱きしめた。

 大丈夫。あなたは、きっと大丈夫だよ。

 とのんちゃんはいった。

 するとその怪獣のこどもはようやく、のんちゃんの胸の中で、優しい顔で笑ってくれた。(画用紙を自分の小さな手で、そっと上に動かして)


 あなたが笑っているだけで、わたしはとっても幸せだった。


 怪獣のこども。 終わり

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