第5話
「男の子にいじめられたから」
「男の子に…」
ひなたちゃんの言葉に、俺は復唱でしか返せなかった。
だって男の子がこんな可愛い子をいじめるだなんて。
いや、可愛さに関わらずいじめは駄目だが。
どうにも男児というのは好きな子に意地悪したくなるものらしいが、俺は男児でもその気持ちはわからない。
なぜならクラスメイトに「かわいい〜」「ちいさ〜い」といじられる毎日だったのだ。それだけでも不登校になるほどなのに、意地悪なんかして好きな子の気を引けるわけがないとわかっている。
「でも引越ししてもらえるまで粘ったのは私だから。前はマンションに住んでて、親がマイホーム立てよう、どこがいい?ってなった時に、いっそ学区を変えたいって言い出して説得したの」
「すごい…ね、そこまで思いつかないや」
俺はすでに持ち家だったのもあるけど。
ひなたちゃんは神社の苔をハイカットスニーカーの爪先でつつきながら話している。
「わがまま聞いてもらったから、こっちではお友達を作るって約束なんだ。だからひなたちゃんがスタート切ってくれてうれしいよ。たぶん、友達は学校で作れって言われるからお母さんには話してないけど」
そうだ。それでいい。
彼女の母目線なら娘に女装した年上男が近づいていることになる。
そう思うと、知られてしまっては俺の命はない。
「それでどうしてこの街にしたの?」
「お母さんが下調べしてくれて、お父さんとお母さんが仕事を変えなくていい範囲で同年代の男の子がいなさそうな地区を選んだんだよ」
すまん…引きこもりで顔を出していなかっただけで同年代の男は住んでいるんだ!ここに!
「男の子はきらい、いじわるするし、声大きいし、乱暴だし」
「そうだね…」
否定はしない。主語は大きいが。
しかし、男に言及するばかりで彼女から女の子の話題がない。
女の子の友達を作ることにこだわるのであれば、女の子のことは嫌いではないのだろう。
「…その、前の学校、男の子にいじめられたんだよね…?女の子は?」
「女の子は…ちょっとやめなよーくらいには注意してたけど…仲のいい子は別にいなかったかな」
ひなたちゃんはそう言って神社を出る。俺も慌ててあとに続く。
ひなたちゃんの話には共感する部分が多かった。
いまは蘭ちゃんの体でいるせいで自分もとは言えなかったが、男子にいじられて女子に傍観されて学校に行けなくなったのは俺も同じだ。
引越しまではしないが、二次性徴を迎えてそれが落ち着くまでは、俺は学校という箱で生活ができそうにないのだ。
「女の子と仲良くしたいな。だめかな、こんなんじゃ。ねえ?」
「ねえ…って。だめじゃないだ…でしょ」
「そう?難しくない?女の子と仲良くなるの。蘭ちゃんはなったことある?」
「え?あ…え?」
なんだ?この空気。
いまひなたちゃんの中では女の子同士で会話をしているはずなのに、なぜ『女の子』という括りが頻発する…?
「ある…よ?ひなたちゃんはそれに入らないの?」
たしかにまだ話すのは2回目だけど…
もしかして距離感、間違えた…?
「…蘭ちゃんって」
ひなたちゃんの目がじっとこちらを見ている。
じっと見られるたびに緊張する。
この姿は蘭ちゃんという設定上の『女の子』だから、いくら男の中で小柄で声が高くともじっくり見られると、最悪の場合…
「蘭ちゃんって、女の子になりたい男の子でしょう」
「はっ……」
頬に触れる空気がさっと冷たくなった感覚があった。
待て。待て待て待て。
冷や汗が背中を伝っていく。
俺としたことが男とバレた時の返しを用意していなかった。
しかもなんか違う方向の誤解も生まれている。
たしかに女装にはいろんなきっかけがあるだろうが…俺の場合はそれではないのだ。
最善の答えが浮かばなかった俺は…
その場から走り去ってしまったのだ。
おんなトモダチ(俺) 楝めーこ @mee_k
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