第7話 お? そこの山川天、迷子か?
「優勝は、楠木中学校です」
閉会式にて、トロフィーを受け取る部長・卓美先輩。表彰状を受け取る副部長・風子先輩。
「ん? あれ?」
気が付いたら、なんか優勝して、全国大会への切符を手に入れていた。
「おめでとう。いい上りだった」
「ありがとー」
これは帝王寺の多々良亜門先輩と風子先輩。
「完敗よ……」
「むしろ計算違いがあったくらいですが……」
帝王寺の増井長谷子先輩に、燐先輩。
「計算違いって、もしかしてオレのこと?」
「そりゃそうやろ……」
我らが卓美部長と、口調とは裏腹に、なにやら清々しい表情の持田国恵先輩。後から聞いたところによると、卓美先輩は山頂で持田先輩を仁王立ちで待っていたらしい。何考えてんだこの人は……。
「大阪代表として、がんばってな。ボクは近畿大会で負けへんように、イチから鍛えなおすわ」
広瀬藍ちゃんがあたしの肩に手を置く。
「そっか。大阪の代表になっちゃったんだ……」
言われてようやく、実感がわいてきた。なんだか大変なことになってしまった。つい先日、東京から越してきたやつが大阪代表ヅラしていいのか? いや、そういう問題じゃないか。
「帝王寺中の連続出場をストップさせた楠木中――全国からマークされるやろうな……」
なぜかあたしにプレッシャーをかける畷くん。男子は早く帰れ。
「そうやぞ。大阪の恥にならんようにな」
持田先輩がニヤニヤと卓美先輩を小突く。
「恥どころか、誇りに思う日が来るで。楽しみに待っとき!」
翌日。いくら全力全開出し切って全身筋肉痛だったとしても、無情に月曜日はやってくる。中学生は学校へ行かなければならない。痛む脚を引きずりながら、学校へ向かう。なんとなく、あまり人気のない抜け道を選ぶ。あの日、卓美先輩と出会った道だ。さすがにもう、迷子にはならない。
「お? そこの山川天、迷子か?」
そしてあの時のように背後から駆け寄ってくるボーイッシュな先輩。
「さすがにもう、迷子にはならない。と考えていたところです」
「ん? おう、そうか」
ダッシュ通学の木村卓美先輩。リュックからタオルを取り出して額の汗をワイルドにふき取る。
「ここで会ったのも何かの縁。共に登校しようではないか」
「え、あ、はい」
謎に芝居がかった言い方。何かたくらんでいるな? そのたくらみは、あっという間に明らかとなる。校門前で判明した。
「おおう……」
楠木中の正門は東側にある。駅の方から歩いてくると一年生の教室がある旧校舎の建物の側面が見えるのだが……
「お、風子と燐もおるやん」
二人は何かを見上げている。
『女子オリエンテーリング部 全国大会出場』
横断幕、というのだろうか。校舎の配置上、横断ではなく縦断。縦向きの旗なのだが、その文字がデカデカと朝日に照らされていた。
「天ちゃん、おはよう」
「天さん、おはようございます」
風子先輩と燐先輩が校門前であたしたちを待っていた。
「昨日の今日で旗が出てるなんて……仕事が速いですね」
あたしはそんなところに感心している。
「新聞部もおったしな……あるいは、和子ちゃんが実はノリノリだったか」
本田和子先生があらかじめ旗を用意していて、昨日の大会が終わってからすぐに校舎に戻って設置した……? ちょっとかわいい。
「どや、実感わいて来たか?」
「そうですね、はい」
かくしてあたしは、大阪代表として全国大会に出場することとなった。
これからさらなる修行を積まなければならないのだが、それはまた別の話。
おりえん‼ 美崎あらた @misaki_arata
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます