第12話 自分の道
その後、家に帰宅してリビングに入ると、悠と杏がすでに座っているのを見て、少し躊躇しながらも声をかけた。
「ちょっと、話したいことがあるんだ」と、俺は肩を少しすくめながら、言葉を続けた。
「実は、零士さんと付き合うことにしたんだ」
悠と杏は一瞬驚いた顔をした。少しの間、誰も言葉を発しなかった。その沈黙を破ったのは、悠だった。
「付き合うって、あの零士さんと?」と、悠は目を細めて、少し考えるように言った。
「でも、どうして突然……?」
俺は深呼吸をしてから、続けた。
「零士さんと一緒にいるとすごく落ち着くし、幸せな気持ちになるんだ。でも、家のことも心配で。これからは、零士さんと一緒に過ごす時間が増えるから、家族の世話が少なくなっちゃうかもしれない」
その言葉を聞いた杏がすぐに反応した。
「それなら、私たちが手伝うよ。家族のことだって、協力していこう」
「でも、俺が世話できなくなっちゃうと、みんな不安だよな……。どうしても、零士さんと過ごす時間を増やすことに罪悪感があって」
悠はその言葉をじっと聞いていたが、やがて真剣な表情を浮かべて口を開いた。
「陽介、俺が言いたいのはさ、家族のことばかり考えて、自分を犠牲にしないでほしいってことだよ。お前だって、幸せを感じる権利があるんだ。それを無理に犠牲にする必要はない」
「でも、家族がいるからこそ、家族を幸せにすることが大切だと思ってたから……」
悠は深いため息をつきながら、力強く言った。
「その気持ちは分かるけど、家族はお前が幸せになることを願っているんだよ。お前が自分の気持ちを後回しにすることで、みんなが幸せになれるわけじゃない。それに、家族だって、お前の幸せを一番に考えているんだから」
杏も頷きながら言った。
「悠の言う通りだよ。私たちは、陽介が笑顔でいてくれることが一番大事。家族のことも大事だけど、自分を犠牲にしてまで他人のために尽くすことが、必ずしも一番じゃないよ」
俺はその言葉を静かに聞いていた。そして、次第にその言葉の意味を噛みしめるようになった。
「でも、もし俺が零士さんと一緒にいることで、家族に迷惑をかけたらどうしようって、ずっと不安だったんだ……」
悠は少し柔らかな表情を見せて、俺の肩を軽く叩いた。
「だからって、そんなに自分を犠牲にすることはないよ。お前が幸せなら、それが一番大事なんだ。もちろん、家族もサポートするから、心配しないで」
杏は俺を見つめて、優しく微笑んだ。
「私たちは、陽介が自分らしく幸せでいてほしいと思ってるよ。だから、零士さんとの時間も大切にしてね」
俺は兄妹の言葉を聞いて、心の中で少しずつ重荷が軽くなるのを感じた。まだ不安が残っていたが、家族の気持ちを理解し、少しだけ安心することができた。
「ありがとう、みんな。俺、頑張るよ。零士さんも家族のことも大事にしながら、少しずつうまくやっていけたらいいなって思ってる」
「そうだな。無理しすぎず、お前のペースでやっていけよ」と、悠も微笑んで言った。
「私たちも協力するから、安心して。お兄ちゃんが幸せになることが、私たちの幸せでもあるんから」と、杏は嬉しそうに笑いながら言った。
俺はその言葉を聞いて、心の中で何かが溶けるような感覚を覚えた。家族の応援を背に、これからの自分の道をしっかり歩んでいこうと決意した。
冷徹な彼に溺れる 紫峰奏 @shihou-kanade
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