渡辺未来の愛し方
ガビ
渡辺未来の愛し方
昔からぬいぐるみが好きだ。
大きいのも小さいのも。
有名なキャラでも、そうでなくても。
私はありとあらゆる、ぬいぐるみを愛している。
その愛故に、裁縫を覚えたくらいだ。
自分で作ったぬいぐるみは、市販のものより不恰好だけど可愛くて仕方がない。私はまだ高校生だけど、子供ができたらこんな気持ちなのかなと想像してみたりする。
そんな私。
そんな私こと、渡辺未来に気になる人ができた。
17年間生きてきて、初めの恋らしき感情が芽生えたのだ。
これまでは、自分はもしかしたら恋愛感情が欠落しているのではないかと本気で悩んだりしたけど、正常な感覚を持っているかもしれないことにホッとした。
相手は、同じクラスの金木慎二くん。
顔は可愛い系。
本人は天然パーマを気にしているようだけど、そのクリクリした髪は触りたくなる魅力を持っていた。
さらに、陸上部の部長さんらしい。
勉強はあまりできないようだけど、長距離走が学年1早い彼は尊敬に値する。
そんな彼を、気づいたら目で追うようになっていた。
いつからかと問われたら難しい。
私が花粉症でグシュグシュしていたら開封前のポケットティッシュ1つ丸ごとくれた時かもしれない。
体育祭でリレーのアンカーに選ばれた彼の美しい走りを見た時かもしれない。
気になった理由など、1つに絞れないくらいにある。
この感覚を覚えた私は、やっと友達との恋バナに参加することができた。
初めてで少し恥ずかしかったけど、距離がグッと縮まったようで嬉しかった。
そんな青春を満喫する日々。
そして、ある日の深夜に、こんなアイデアが降ってきた。
(金木くんのぬいぐるみを作れたら、最高なのでは!?)
気になる人である金木慎二。
好きなものであるぬいぐるみ。
この2つを組み合わせたら、最高にエモい作品が出来上がるに違いない。
時刻は午前2時を過ぎていたが、この素晴らしいアイデアで脳と心が冴え渡り、とても眠れる状態ではなかった。
明日も学校だけど‥‥‥。
「よし‥‥‥やるか」
思い立ったらすぐに行動に移せるのは、私の数少ない長所だ。
\
「‥‥‥できた」
カーテンから朝陽が透け始めた午前6時10分。
私は、金木くんのぬいぐるみを完成させた。
我ながら、良い出来だと思う。
15センチくらいの、丁度いいサイズ。
金木くんの、ちょっとトロンとした目元も巧く表現できているし、1番のチャームポイントである癖っ毛も、毛糸を駆使して再現に成功した。
「‥‥‥可愛い」
ボソっと呟く。
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」
徹夜明けの私は、ニチャっとした笑顔でそう繰り返した。
ホントに可愛い。
え? ちょっと待って。もしかしてこれ、世界で1番可愛い物体なんじゃないの?
鼻息が荒くなる。
優しく抱きしめてみる。
「おおぅ」
そんな、ちょっと気持ち悪い声が漏れるほどに、その抱き心地は完璧だった。
「フワフワだぁ‥‥‥」
抱いたまま、ベッドに横になる。
あぁ。幸せ。
後1時間もしたら学校に行く準備をしなければならないが、今はこの多幸感に蹲っていたい。
その貴重な1時間を金木くんのぬいぐるみをモフモフしながら過ごすことにした。
\
一睡もしていないけど、脳が興奮状態なためか全く眠気が無く学校に行く。
金木くんと会うのが、いつも以上に楽しみだ。
だって、ぬいぐるみであんなに幸せになれたんだよ? 本人を見たら癒しの極地に達するに違いない。
そう確信して教室に入る。
金木くんの声がする。お友達と喋っているようだ。
期待を込めて、そちらに目線を向ける。
「‥‥‥あれ?」
おかしい。
全然、魅力的に感じない。
ぬいぐるみの方が圧倒的に愛おしい。
その時、私は自覚することになる。
(私、対物性愛者なんだ)
人間以外に恋を愛を感じる人種を指す言葉だ。
嘘みたいな話だが、ベルリンの壁と結婚していた女性がいるという情報もある。
自分が世間から理解されにくい存在なのだと私は、不思議と安心していた。
今まで生きてきた人生が窮屈だったのは、これが原因なんだということがわかったから。
理解してしまえば、こっちのものだ。
分からない恐怖に怯える必要は無く、気兼ねなく愛をぶつけることができる。
帰ったら、速攻で抱きしめよう。
愛するあの子の名前はそうだな‥‥‥。
金木未来なんてどうだろう?
-了-
渡辺未来の愛し方 ガビ @adatitosimamura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます