第4話 天女の羽衣と天狗の団扇や下駄の次は、羽?

銀色の円盤の運転手は、穏やかな声で美鈴に話しかけてくる。

「あなたと私は違うかもしれないね。発見してくれてありがとう。助けたものの、野生のタヌキには難儀していたからね。」

宇宙人ですか、と聞いて、宇宙人です、と答える宇宙人も地球人もいないかもしれない、と美鈴は恥ずかしくなった。

「この山に住む命を助けてくださり、ありがとうございます。」

タヌキと話をすることはないだろうけれど、銀色の円盤から飛び出していった二匹の野生のタヌキは、日本産だ。

美鈴は、まず、宇宙人が日本産のタヌキを助けてくれたことに感謝することにした。


町への救助要請がいらないなら、美鈴がすることは、宇宙人が立ち去るのを見届けるだけで十分かもしれない。

宇宙人なら、町への救助要請は必要あるまい。

明らかに宇宙人にしか見えない宇宙人が、美鈴と同じものを食べても消化できる気もしない。


「お帰りは、このまま空へ、で間違いありませんか?」

美鈴は丁寧に確認してみる。

空飛ぶ車の運転手となら会話してみたいと思ったけれど。

UFOに乗っている宇宙人と何を話せばいいのかなんて、美鈴には思いつかない。

ところが。

さっさとバイバイしたい美鈴とは裏腹に、UFOから降りた宇宙人は、美鈴と話をしたがった。


「日本人は、とうとう頭に羽をつけて飛ぶことにしたんだね。」

宇宙人は、美鈴の頭の上の羽を見て目を細めている。

「あなたは、日本人について詳しいんですか?」

宇宙人が帰ってくれないので、美鈴は少しだけ宇宙人に付き合うことにした。

「空を飛ぼうとして、天女の羽衣や、天狗の団扇や下駄に思いを馳せていたときもあったよね?」

美鈴は、天女の羽衣も天狗の団扇や下駄にまつわる話など、昔話以外ではきいたことがない。

「羽の前は、ヘリコプターや飛行機が普及していました。ご存知ですか?」

「日本以外では、ヘリコプターや飛行機が今も主流だよね?」

宇宙人は、日本だけに詳しいわけではなさそうだと美鈴は思った。

「日本は島国なので、羽をつけて飛んでも、国境を越える心配をしなくて良かったのが、羽の普及に拍車をかけたようです。羽で国境を越えようとすると遭難する可能性が高くなります。命が大事なら、羽だけで大海へ出ようとはしません。」

「日本人自身も、危険性をよく理解して羽を使っているんだね?」

宇宙人は日本人が羽を使う姿を見て心配になり、UFOに乗って、実際の様子を見に来たのだろうか?

「国内での移動に羽を使うことが普及したのは、日本人の便利さへの追求と安全意識の高さが合わさったからだと言われています。

海を超える場合は、移動が国内であっても飛行機や船が主流です。」

美鈴は、できるだけ、丁寧かつ簡潔な説明に努めた。

UFOに乗っている宇宙人は、美鈴との会話に困っていないが、難しい言葉は使わない方が親切だろう。

「天女の羽衣は、誰でも使えるところが使い勝手の良い点ではあったが、盗難防止タグを外されると盗まれ放題だった。

羽は、天女の羽衣の問題点を克服したのか?」

宇宙人は、天女の羽衣について真剣に考えているようだ。

「天女の羽衣に憧れた時代に、盗難防止タグは開発されていなかったと思います。」

「いや。盗難防止タグが発明されたことで、開発に力を入れていなかったか?」

宇宙人と話すと長くなりそうだ。

羽をつけていても、嵐の後の川の近くに長居するのは、御免被りたい美鈴は、宇宙人との話を打ち切ることにした。

「私には、羽の使用上の注意点以外は分かりかねます。」

「分からないくらいでちょうど良い。分からないことを理解しているあなたは、望ましい。」

穏やかな宇宙人は、穏やかなまま、話を続けようとしている。

「私は、もう帰ります。」

言うなり羽で飛び立とうとした美鈴の肩へ長い手を伸ばした宇宙人は、美鈴の都合を聞かないまま、穏やかに結論を伝えてきた。

「あなたは、私の日本人研究のいい助手になれる。

私はあなたを採用しよう。」

肩をつかまれたままで、美鈴は確認する。

「助手の件、断れますか?」

宇宙人は、長い手を使い、羽で飛んでいる美鈴を地上に引き戻してこう言った。

「私の助手になることを断ることは、日本人のもったいない精神に反するよ。

あなたが私の助手になることは、あなたの人生を豊かにすると約束しよう。」

遭難者を探し当てた美鈴は、この日、日本人研究をしている宇宙人の日本人研究のための助手になることが決まった。

空の青さが、目にしみる。

美鈴は、嵐の後の雲一つない青空を仰いだ。

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日本人の移動手段は、羽になった まなか @okafuku

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