それは、『いつか』の物語
隅田 天美
それは、『いつか』の物語
深海地方豊原県星ノ宮市。
平日で、ほどほどに混んでいる街中で双子が雑踏の中を楽しく歩いている。
姉は言った。
「あぁあ、今日はマスターが私の腕前を見てくれる日だったのに、仕事でキャンセルなんてついてないわ」
活発そうな姉に対して弟は苦笑いをする。
「しょうがないよ、姉さんのマスターは社長さんでしょ? でも、俺が探していた辞書を一緒に探してくれてありがとう」
双子の弟は姉に礼を述べた
「あのね、今どき紙の本なんて、あの古書店にしかないわ。何で、電子書籍を買わないの?」
「あんなの、無粋だよ。先生も言っていた」
放課後なのだろう。
同じような制服を着た高校生たちが街を歩く。
時は二千年代も後半に差し掛かり、星ノ宮市はほぼ電子化された。
駅の改札は手首をかざすだけで通れる。
勉強なども市などからタブレット端末などが無料で支給されている。
リモート授業も当たり前。
引きこもりなどの問題がなくても、意思さえあれば、学年関係なく好きな授業を受けることもできる。
と、姉が小さく言った。
「気が付いた?」
「後ろにいる黒服だよね?」
確かに双子を追っている男たちがいた。
「どうする?」
二人は繁華街から、裏道に出た。
「マスターは『危険なことはするな』と言っているけど……」
「先生も『無駄なことはするな』と警告するけど……」
二人は初めて、誰もいない裏路地で、にぃと顔を見合わせた。
「春平おじいちゃんが言っていたよね。『面白いことはどんどんしろ!』」
そういうと、踵を返し、襲い掛かろうとした男たちに二人は襲い掛かった。
二時間後。
自称・自己防衛のために退治した男たちから得た情報で、アジトまで来た双子は二手に分かれた。
姉は自前の、マスターである石動肇の手ほどきで自らプログラミングしたタブレットでトラップなどの解除や常に持ち運んでいる小鳥型ドローンで内部をスキャンをして待機している弟にデータを送る。
「十人程度のチンピラだから、あなただけでも十分ね。トラップなどの解除は終わったから、存分に暴れてきなさい」
スマートフォンでデータを送られた弟は指の関節を鳴らした。
気合を入れるときにポー・スポークスマンがやる癖を真似たのだ。
「ありがとう、姉さん……行ってきます」
「夕方の星ノ宮ニュースです。今日の星ノ宮では……」
着流しで寝そべりながら平野平正行がテレビを見ていた。
「正行、おめぇもお父ちゃんになったんだから嫁さんと母さんの料理手伝え」
土間で料理を作っている秋水が声をかける。
すでに白髪になり顔にも皺が出来ているが、相も変わらず、筋肉質で派手なアロハシャツ、短パン、サンダルが似合う。
「親父の真似をしているんだよ……」
懐が鳴った。
スマートフォンを懐から出す正行。
「はい……あ、猪口さん……え? はい、すいません」
そこに、ボロボロだが元気に双子が帰ってきた。
「ただいまぁ!」
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お姉さん 二卵性双生児の姉。父は正行。石動肇を『マスター』と呼んで師事している。高校生。格闘技などもできるが、AIなどの機械操作・情報収集にも長けている。
弟君 二卵性双生児の弟。ポーのことを『先生』と呼んでいる。(ポー本人は請われれば教えるタイプ)姉と同じ高校生ながら茶道部に入部してAIなどに興味などもなく今どき紙の教科書やノートを普通に使う。格闘技が得意。
それは、『いつか』の物語 隅田 天美 @sumida-amami
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