転生トラックと髭

古宮九時

髭、奔走する。


 ジワーズ暦1529年、時の大国シャルブアは迫り来る魔物の軍勢を前に、滅亡の危機に瀕していた。

 北の高山より際限なく現れる異形たちは、小さな村々を食い荒らし、平和な町を壊滅させて、人間の命と国の体制を脅かしていく。その惨状や見るも無残なもので、城から派遣された軍勢でさえも、とめどない敵の出現に士気を挫かれるほどであった。


 やがて魔物たちの侵攻が始まってから二年。

 国土の三分の一が魔物の手に落ちた時、王は苦渋の末ついに古来より伝わる禁断の術を紐解いた。

 つまり――異世界へ使者を送り出し、魔物討伐にふさわしい勇者を連れ帰ってくる、という最後の頼みの綱となる術を。



「そういうわけで、俺たちが派遣されたわけだが」

「そんなことは知ってます。それより、これがなんであるか聞きたいんですが」


 夕暮れ時、赤い誘導用のライトを振って、女は路肩に停められたモノを示す。

 交通誘導員姿の彼女は、格好こそ一アルバイターそのものだが、その造作と銀髪は明らかに日本人ではない。

 若い女の疑問に、髭面の男は頷いた。


「これはな、2tトラックだ」

「いやそれは分かりますよ。それよりなんで2tトラック借りてきたんですか。新しいバイトですか?」

「違う。これで今から俺たちは陛下からの命令を遂行するんだ」

「…………え?」

「ついにこの日が来た! 異世界でのバイト生活も終わりだ。さぁ、助手席に乗れ、リーア!」


 意気ごんで運転席に乗る男を見上げて、リーアは沈黙する。


 シャルブア城に士官する魔法研究者ザゴンと、一武官であるリーアが異世界に送られたのは、もう二年前のことだ。

 この地で勇者となれる人材を見つけ、連れて帰って来いとの王命。国の存亡をかけた命令に二人は奮起して任務にとりかかった。具体的には言葉を覚えながら日雇い仕事をしてアパートを借り、少しずつ金を貯めていった。


「勇者を見出すには、まずこの世界をよく知ることから」と言い張るザゴンに、リーアは不可解さを抱いたものだが、どっちみち武官である彼女には元の世界へ帰る術は使えない。だからこそ日々のバイト生活に精を出していたのだ。


「というか、精出しすぎて本来の目的忘れかけてました……」

「俺は覚えていたぞ! だからトラックを用意した!」

「なんでトラック。物資でも積み込んで帰るんですか?」


 この世界に来てたった二年だが、元の世界にはない武器が大量に存在していることをリーアは知っている。助手席に座りシートベルトを締めた彼女に、ザゴンは力強く頷いた。


「いや違う! これで人を轢く!」

「下りろ」


 即座に振るった拳は、男の横面に突き刺さり嫌な音をさせた。

 剣を持たなくなってもう大分経つが、代わりに日雇いバイトのおかげで腕力は鈍っていないらしい。

 元武官のパンチに対し、シートベルトで強制降車を免れたザゴンは、両手を上げて彼女を留めた。


「待ってくれ。説明しよう」

「説明して下さい」

「この世界には、異世界に招かれる際の手順というものがあるのだ」

「へぇ……」

「拳を握るのはやめてくれ。世界転移とは強引な術だからな。この世界のルールにある程度則らねば、こちらの人間を連れ帰ることが出来ないんだ」


 必死に言い繕う男の言葉は、もっともらしく胡散臭い。

 リーアは握った拳を軽く素振りしながら、横目でザゴンを冷ややかに射抜いた。


「――で?」

「つまり、こちらの世界で浸透している手順の一つが、トラックに轢かれることだと」

「それ死んであの世に行くってことでしょう!」

「いや本当なんだ!」

「本当の訳ありますか! 私が見た映画では洋服ダンスとか古い本でしたよ!」

「洋服ダンスを持ってうろうろできないだろう! もっと能動的に異世界勧誘できる手段じゃないと!」

「…………」


 力説する男の言葉には到底納得できないが、洋服ダンスを持ってうろうろ出来ない、ということだけは同意だ。正確にはリーアは引越しのバイトもしたことがあるので、可能といえば可能だが、勝手に人の家に魔法のかかった洋服ダンスを持ち込むことは出来ない。本だとしても、怪しい宗教勧誘と思われるのがおちだ。


 眉間に皺を寄せて黙り込む彼女に、ザゴンは更に言い繕う。


「それに、この手段でならどんな人間を転送させるか選びやすい」

「選んで轢くってことですか」

「そう。もうずっと前から俺はその為に準備してきた」

「それって、私のバイト代で運転免許を取るってことですかね」

「それもある。交通法規を知らなければ正しい転送は出来ないからな」

「正しい転送とか言い換えないでください。人を轢く為に免許取っておいて」


 握った拳が手持ち無沙汰なので、とりあえず隣の男を殴っておく。

 そうした上で、リーアは改めて深い息をついた。


「……分かりました。じゃあ早速始めましょう。陛下も多分お待ちかねです」


 待ちすぎて国が滅亡している可能性もあるが、それを言ったらおしまいである。向こうではさほど時間が過ぎていないことを祈るしかない。

 ザゴンはエンジンをかけると、ゆっくりトラックを発進させた。日の落ちかけたアスファルトをヘッドライトが照らし出す。


「よし、じゃあ運転しながら人材を選ぼう。ちゃんとトラックの前面部には魔法をかけておいたからな。発見、即、転送できる。ターゲットはトラックに接触した瞬間に向こうの世界へご到着だ」

「効率的ですね。二年もかかったのが嘘のようです」

「文化を調べる為に時間がかかったんだ。今日の日の為に、俺はネット番長となって沢山のネット小説を熟読してきた。お気に入り件数が上限に達してしまったので、作者のXをリスト整理して更新告知をチェックしているくらいだ。勿論、感想で作者を励まし、埋もれそうな作品にはレビューをつけることも忘れていない」

「聞けば聞くほど不安になるんで、そろそろ黙ってください」


 ゆっくりと安全運転で走り出すトラックは、勇者候補を探して夕闇の中を進んでいく。

 先を照らす小さなライトを目で追って、リーアは深い溜息をつく。




 夕暮れ時、駅から遠い住宅街にはあまり人の影はない。

 ハンドルを操作し、広い道を目指しているらしいザゴンは、もっともらしく頷いた。


「まず最初に言っておくことは、このトラックには轢ける人数に制限がない」

「一瞬聞きたくなかった、と思いましたが分かりました」


 それならば、勇者の選定も大分気楽になる。数を撃ってみればいいのだ。

 リーアは顎に指をかけて考え込んだ。


「ではまず屈強な男を選んで……」

「待て、リーア! お前は様式美というものを理解していないのか! ここは十代の少年を選ぶところだろう!」

「分かりました。十代の屈強な少年を選ぶんですね」

「違う! もっとこう、鬱屈として現実に嫌気が差していて、でも野心と欲望はあって、根本的には善良であるけれど、善人になりきれるほど信念が確立しているわけでもなく、人の底無しの悪意は知らない、――そんな伸び代のありそうな少年を選ぶんだ!」

「見た目で判別できる特徴を選んでください」


 リーアは拳を握ったが、運転中の男を殴るわけにはいかない。

 こんなことならば自分が免許を取ればよかった、と彼女は心から後悔した。


 交通法規を守ってのろのろと進むトラックは、信号を曲がり比較的広い道へと出る。


「じゃあもうとりあえず男子学生を片端から轢いていきましょう。中に当たりが出るかもしれません」

「いや、そんなにトリッパーがいるとジャンルが微妙に違って――」

「様式美って面倒くさい!」


 そもそも男のこだわりのソースを彼女は確認していない。

 リーアはザゴンのポケットからスマホを抜き取ると、投稿小説サイトアプリから彼の書いた感想一覧を読み始める。


「…………なるほど」

「ちゃんと評価をつけた作品一覧も見てくれ。完結作はそっちに並んでる」

「今読んでる時間はないんで、あなたの感想とあらすじだけ読みます」

「まて。あらすじだけでは伝わりにくい。この作品などは二転三転のどんでん返しと谷底の落としっぷりが凄まじく―― 」

「前見て前」


 どん、と。

 鈍い衝撃を一瞬感じたような気がしたが、気のせいだったに違いない。

 急ブレーキの音だけが長く尾を引いて、二人は顔を見合わせた。

 携帯を握ったままのリーアが問う。


「轢いた?」

「轢いた、みたいだ」

「どんな人間を」

「杖をついたご老人だった。教習所の授業では、夕暮れ時は視界も悪く、特に老人には注意するようにと……」

「守れてない! 全然守れてない! 何、老人を転送してるんですか! どっちも幸せになれませんよ!」

「いや待て! これはきっと、老人が主人公のよきアドバイザーになるという展開で……」

「もう次行きますよ、次! 通報とかされる前に!」


 たとえ被害者がいなくても、ブレーキ痕をこれだけつけていては何か言われかねない。

 リーアが携帯を握りつぶさんばかりに叫ぶと、髭は慌ててトラックを再発進させた。

 黙々とあらすじを読みはじめた女は、ぽつりと問う。


「これやっぱり、もともと一芸がある人間を送るのがいいんじゃないですか?」

「そういう説もある。が、俺は、まったく取り得のない少年が足掻き、苦しみ、失敗しながら成長していく話が好きなんだ。たとえバッドエンドになろうとも」

「滅ぶ。祖国が滅ぶ」


 そろそろ目的と手段が逆転してきている気がする。

 ちらほらと増えていく人通り、犬を散歩させている中年女性を横目に見ながら、リーアは溜息を飲みこんだ。


「でも、こう転送の弾みでチート能力が、っていうのは期待できないんですか? それならば誰を轢いてもいい気がしますけど」

「多少は期待できると思う。転送の圧力に耐える為には、魂に空き部分があると不味いからな。適当にその辺のものを取り込んで、パワーアップするかもしれない」

「意味がよく分からないんですけど」

「荷物を宅急便にして送る時、ダンボールに隙間があると荷物が壊れるから、適当に新聞紙を緩衝材として詰めるだろう。その中に当選している宝くじが挟まっているかもしれない」

「確率低っ……」

「ならばお父さんのへそくりと言い換えよう」


 もっともらしい髭の言葉を無視して、リーアは感想で激賞されている長編作品の一ページ目をクリックする。


「…………確かにトラック」

「そうだろうそうだろう。この作品は、サイト内で圧倒的な支持を集めているんだ。つまり青少年たちは圧倒的にトラックを求めていると言っていい」

「第一轢かれ人は老人でしたけどね」

「夕方の放送で捜索されてしまうな」


 しかも絶対見つからないこと明らかだ。

 二ページ目を読み始めたリーアは、先の横断歩道を行く学生服の少年を見つけて指さした。


「あ、あれ行きましょう、あれ! 竹刀持ってるところとか期待できます!」

「分かってきたな、リーア! 異世界で侍が活躍する話は燃える!」

「隣を歩いているのは眼鏡君ですね。まとめて行きますか」

「よし、眼鏡君は内政担当だ!」


 言いながらスピードを上げて、トラックは二人の少年に迫る。

 しかし彼らは当然異音を上げて近づいてくるトラックに気づき、慌てて横断歩道を渡った。目の前にある駄菓子屋へと駆け込む。


「甘い! 逃がすか!」


 ザゴンは二人を追ってハンドルを勢いよく切り――



「……どうしてこうなるんですかね」

「現代日本人は、交通事故の危機に敏感なのだな」

「そうじゃないですよ! 少年二人はいいですけど、店番のおばあさんと駄菓子屋の半分も転送しちゃったじゃないですか! 老人二人目ですよ!」


 古い駄菓子屋を引っ掛けて道路に戻ってきたトラックの中で、リーアは髭の脇腹にパンチを見舞う。

 髭は「ぐふっ」と呻きを上げて身を捩った。ちょうど信号待ちの時でなかったら、あらたな老人を送り込んでいただろう。


「ま、待て。人は守るものがある方が強くなれるという。少年たちは老人二人を守りながら敬老精神を鍛えて」

「主人公の成長の為にお年寄りを踏み台にしないでください」

「いやでも、老いた二人にラブロマンスが生まれるかもしれない。それはそれでサイドストーリーとして……」

「残る二人が気まずいことこの上ないですね」

「そこはそれ、俺の趣味ではないが、BL的な方向へ行くという手もある」

「女の子も轢きましょう!」


 信号が青に変わると同時に、リーアが隣からアクセルを踏む。

 足の甲の上から思いきり踏み込まれた髭は、悲鳴を上げたがハンドルは放さなかった。涙目で帰宅時間帯の駅前へと近づいていく。


「じゃ、じゃあ、黒髪ロングの利発そうな女子小学生を……」

「子供は駄目絶対! 老人はともかく子供は駄目! ってかそれあなたの趣味でしょう! 二年も一緒に暮らしてきて初めて知った!」

「じゃあ清楚な女子高生で……」

「ok。全速前進」


 きびきびとした指示に従って、転生トラックは進んでいく。

 その先に何がありトラックは何を為すのか――。

 大体酷い結果しか予想されないのだ。




 現在の転送物。

 老人(男) 一名

 男子中学生 二名

 老人(女) 一名

 駄菓子屋  半分





 駅前近くの交差点を安全運転で通り過ぎたトラックは、旧県道を煌々と照らして走り続けていた。ハンドルを握るザゴンが、重い息を漏らす。


「駅前での戦いは厳しかった……」

「戦いというか。女子高生を轢こうにも皆団体で、しかも派出所が近くにあって警察官が見張りに立っている、というだけのことじゃなかったですか」

「だけとか言うな! 捕まったらもう二度と人は轢けないんだぞ!」


 不穏等な発言は、幸い窓が閉まっていたので他の誰の耳にも入っていない。

 リーアは頬杖をつきながら髭の携帯をぽちぽちと操作した。


「捕まる前に轢けばいいのだと思いますが」

「なんという反社会的発言だ……」

「発案者が何言ってるんですか。――ってあ、あの子どうです?」


 そう言ってリーアが指さしたのは、前方を走る自転車の女子高生だ。セーラー服に長い黒髪を二つのおさげにした少女で、古風な後ろ姿に髭は眉をしかめる。


「ちょっとレトロすぎないか? 挿し絵にした時に時代がかりすぎというか」

「そういうの、とらたぬって言うんですよ。挿し絵の心配をしていいのは、挿し絵をもらえる身分になってからです」

「ぐぬぬ……」

「ほら早く! 逃げられますよ!」


 リーアの叱咤を受けて、髭はアクセルを踏み込む。

 猛然と追いすがってくるトラックに、女子高生もただならぬ気配を感じたのだろう。肩越しにちらりと振り返るとスピードを上げた。

 長編小説の43話目を読みながら、リーアが冷ややかに指示する。


「轢け。遠慮はいらない。奴こそが第一ヒロインだ」

「……な、キャラ変わってきてるのは、読んでる話の影響か?」


 この分では読み終わる頃には血も涙もない交通誘導員が出来上がるかもしれない。

 一刻も早く任務を終わらせる為、髭はトラックを全速で走らせた。

 しかし敵もそれを察してか、軽快なハンドルさばきで左の細い路地へと入る。2tトラックでは到底通れなさそうな小道に、髭は歯噛みしてスピードを緩めた。


「くそ、仕方ない。次のターゲットを……」

「仕方なくない」


 ぐい、と横からリーアの手がハンドルを掴む。

 悲鳴にも似た耳障りな音を立てて、トラックは自転車の消えた路地へと突っ込んだ。左の前輪がブロック塀を削り――そのまま塀は消失する。

 異世界人二人の乗り込んだ2tトラックは、そうして他人様の土地をがりがり削りながら女子高生へと追いすがった。

 みるみるうちに転送されていく塀、庭木、土佐犬、そして飼い主の老人、散歩中の老人、植木の手入れをしていた老人の姿に、髭は思わず小さな悲鳴を上げる。


「ちょっ、待っ、ひど……!」

「もっとアクセルを踏め、髭」

「老人がもりもり追加されていってるぞ! どれだけ老人をトリップさせてるんだ!」

「さしずめ私たちは高齢化社会の救世主ですね」

「俺の祖国が姥捨て山!」


 片手にハンドルを、片手に携帯を掴んだリーアは、元武官の膂力もあってか完全にトラックの進行方向について主導権を握っている。

 女子高生まではもうあと5メートル。振り返った少女が、次々異世界に消えていく塀に気づいて、ぎょっと目を瞠るのが分かった。

 そのせいでペダルを漕ぐ力が緩んだ隙に、トラックのバンパーが自転車を捕らえる。

 飲み込まれるセーラー服。リーアがふっと笑ってハンドルから手を離した。


「―― いい勝負だった。次に会う時は異世界だ」

「あの、そろそろスマホ返してくれると嬉しいんだが……」

「今盛り上がってきたところだから嫌です」

「自分のスマホでアプリ落としてくれ。というかこれをどうすればいいんだ」


 トラックの前に道はない。トラックの後ろに道は出来る。

 停車したトラックの先に見える、歩道ぐらいの広さしかない塀の隙間にリーアは首を傾げた。


「これ、バックで轢いたものは転送できるんですか?」

「無理。前にしか魔法かけてない」

「じゃあ進むしかないですね」

「いや本当に!? 本当にそれしか選択肢はないのか!」

「第一ヒロインは送り込んだんで、次はヤンデレなサブヒロインを送り込みましょう」

「見た目で判別できる属性を選んでくれ!」


 絶叫する髭の耳に、だが近づいてくるパトカーのサイレンの音が聞こえる。

 さすがに百メートルに渡って半坪分の横幅を削ったとあって、誰かに通報されたらしい。

 ザゴンはそれに気づくと慌ててトラックを再発進させた。

 正面のブロック塀(両側)と、桜の木が一本、そして花見をしていた老人が一人異世界へ転送される。




 戦いの終わりは、いつもなんとなく空しい。

 そんなことを考えながら、髭は街を一望できる高台に立ち、歪な夜景を見下ろしていた。

 耳を澄ませばあちこちから混乱の喧騒が聞こえてくる気がするが、それは半ば幻聴であろう。警察に追われて道なき道をトラックで暴走しまくった彼は、長い息を吐く。


「俺の任務もこれで終わりか……」

「任務というか人生も終わりな気がしますが。国に帰りますか?」


 隣のベンチに座り、まだ携帯を操作しているリーアはしらっとした反応である。

 問題のトラックは既に証拠隠滅の為に海に突っこませ、逃げてきた彼らは身一つだ。

 この世界に来た時と大差ない、というか若干悪くなっている状況に、髭は哀愁に満ちた微笑を浮かべた。


「国には帰らないさ。後のことは百四十二人の勇者たちに任せるよ」

「そのうち八十九人は老人ですけどね。まぁ帰ったらまず私たちが処刑されますよね」


 逃走したトラックの経路のまま、こちらの世界の物体が転送された祖国が、どうなっているのか知りたい気もするが、知らない方が幸せだろう。

 読み進む手の止め時が見つからないらしいリーアを放置し、髭は頷いた。


「とりあえず、新しい街に行って新しいバイトを探すか。一から出直しだ」

「了解です。ところでこの話のヒロイン、猫耳とヤンデレとどっち押しですか?」

「猫耳」

「えー。断然ヤンデレです。分かってませんね」

「ヒロイン論争なら受けて立とう。鋼鉄のスコッパーの真髄を見せてやる」




 こうして異世界人は、他人様の土地をおもむくままに削って、また別の土地へと去っていった。

 小さなアパートに住み、ネット小説を愛読し、バイトに励む彼らは、けれど今でも時々、転送バイトをしているらしい。

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転生トラックと髭 古宮九時 @nsfyuki

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