33 薄明[6]

途中の説明パートは読み飛ばし可です。


――――――――――――――――――


してるなぁ……』とめんどくさそうなチカさん。


『3割くらいか?』


「ですかね」と相槌しつつ、【捜索者シーカー】の全容を遠方にとらえて注視。


 時計を横目に、心の中で秒数をカウント。


 1、2、3――。3秒だ。


「3秒に1体。――つまり毎秒、あー、シャルロット」


『40ですニャ』


「毎秒40体」


 ふーん、とチカさんが鼻を鳴らす。


『単純計算、5分弱で元通りか』


 というのは、視線の先、――結晶構造の内部のすきまの空間たち。


 その空間が、それぞれ3秒ごとにジワジワッと陰ったかと思えば、次には物体オブジェクト――6本のユニットを持つ魔法陣――が出現するのである。


 つまり、自己再生が可能。


 それが毎秒40体のペースでされている、という事だ。


 ……うん、ランクA(仮)というだけあって、なかなか高スペックだね~。


 そう感心する一方、――まぁめんどい、というのはチカさんに完全同意だよ。


 ゲンナリしつつも、僕は改めて、全体の状況を確認する。


 敵は現在、次のような挙動を示している。


 遠距離から僕を狙撃する砲塔たち。これが全体の2割くらい。

 敵中心付近で新たな物体オブジェクトを生み出し続けるものたち。それが3割。

 障壁を張るものたち。チカさんの動きに追従するものと、全体にちらほらいるもの、それから中心付近を防衛するもの、全部合わせて2割。

 編隊を成して散開するものたち。たぶん1割。


 千鳥のように群れたそれらが、うぞうぞとうねり、脈打ち、リアルタイムに相互連携・陣形を組み換えつつ、刻々と陣形を組み変えながら総体として臨戦する様子は、改めてある種有機的な、生命のような印象を想起させる。


『――頭数あたまかずを活かしてるな』


 と、評するチカさんに、僕も同意見だ。


「手間取ったらジリ貧ですね」


『うん、――“禁則文字”だけ試す。入力インプット送った』


『データ受領! 範囲を視界に表示しますニャ!』


 とのシャルロットの声と共に。

 すぐさま僕の視界に、その散布範囲とやらが示される。


 コバルトブルーの風景に重ね、薄赤い領域が表示。――散布範囲それは、【捜索者シーカー】の巨大な白い体躯、その横腹へ喰らいつくような格好で、僕にほど近い所まで及ぶ。


 要するに。どこに居るか知らないけど、自分で勝手に避けてね! という意味だ。


 僕は即座に跳躍し、退避。


 同時、チカさんのカウント。


『散布3秒前、2、1――』


 ボフ――、と破裂音が大気を震わせる。


 続いて眼下、散布範囲の中ほどから、ほわん、と白いかすみが広がるのを視認。


 かすみか? あるいはもやか。

 そのようでありつつ、周囲のオレンジ色の光を反射しチラチラときらめくそれは、白く微細な状のものだ。


 チカさんの曰く、『禁則文字』。


 それが何であり、どんな効能を持つモノか? 詳しくは知らない。

 ただ、空間へと散布されたそれが、果たして噴霧ふんむのように濛々もうもうと【捜索者シーカー】の体躯へ広がり、染み渡っていき――。


『――ダメか』チカさんが息をく。


 どうやら、期待していた効果は得られなかったらしい。


『しょうがない、注入インジェクションでいく』


「了解」


 と応えつつ、ふと悪戯心いたずらごころが沸き、訊き返してみる。


「面白くは?」


『……ない』



 注入インジェクション


 ……なんてカッコ良さげに言ってるけど、意味するところは単純。


 敵の体に、毒性の魔法を注入する。


 毒を盛る。


 その程度の意味らしい。


 というのも現況、初撃からここまでに諸々もろもろ確認した結果を総合し、【捜索者シーカー】を倒すうまい手段が注入それくらいとなっているのである(ちなみにそれもダメなら、頑張ってぷちぷち殲滅していく方針。自己再生ペースが殲滅速度を上回るようなら、倒せる見込み薄として放置・撤退の上、再戦を検討となる)。


 で、注入インジェクションで【捜索者シーカー】を撃滅する段取りはこうだ。


 群体の【捜索者シーカー】、その各所より、同時多発的に『毒性の魔法』を注入し。その体躯を構成する数万の物体オブジェクトたちを一斉に・一網打尽に自己破壊させる。


 簡単に言うと—―。


『群れのあちこちから毒を注入し、再生の間も与えず全滅させる』


 そんなふうに、チカさんは説明していた。


 そういう事らしいのだが、ちょっと順を追って説明する。


 まず、注入する『毒性の魔法』について。


 どんな魔法を使うのか? これは、チカさん(厳密には少し違うらしいのだが……)の魔法を使うらしい。


汎用魔法ゼネラルスペル】でも【固有魔法グランドスペル】でもない、手作りの魔法。


 効果は『自己複製・増殖して周囲に伝染しつつ、対象の自己破壊を促す』というモノだという(なんか、毒というより、菌とかウイルスっぽいかも)。


 かつその自己破壊は、注入し伝染させた後に、魔法の使用者の好きなタイミングで起動トリガーできるとの事。


 という事で、なるほど確かに。それなら数万規模の物体オブジェクトたちを一斉に破壊できる、というワケだね。つまりは、充分に増殖・伝染させた頃合いを見て自己破壊を起動トリガーすれば良い。


 ちなみにこの魔法、同じくチカさん所有の【魔法具マジック・アイテム】である【可編凍結筐リライタブル・メモリキューブ】に書き込み済みのものがあり、それを【複製器レプリケーター】で複製して使う、との事。


 この【可編凍結筐リライタブル・メモリキューブ】というのは、『魔法や情報を記録しておける』という効果の【魔法具マジック・アイテム】だ(実は先ほど僕が使った【可編凍結筐リライタブル・メモリキューブ封入シールド:カスタムオブジェクト『パッチテスター・v1.02』】も同じく、チカさんお手製であり、彼女から預かったものを使った)。


 で、その外観もやはり、サイコロ大の透明ケースに納まった魔法陣である。メニュー画面を介した『アイテムの譲渡』により預かったので、まだ確認できてないけどね。


 さて。次に、『注入する』という点。その方法についてだ。


 普通の生き物—―つまり有機物からなる生物—―を相手に毒を使うなら、毒を飲ませる(経口投与をする)、あるいは武器に塗布とふして攻撃する、などなど……、手段はいくつか思いつくけども。


 いま相対あいたいしている敵は、【ひずみ】という正体不明の存在だ。


 毒を、どのように注入するのか?


 この点については、先ほど僕が確認して得た結果を活かす。


 すなわち、【捜索者シーカー】の感覚器官・入力装置である『目』。


 そこを介して注入するらしい。


 どういう事かと言うと、魔法を――というより、その形式的な表現であるを――『見せ』・『読み込ませ』る事で【捜索者シーカー】へと注入する。


 まぁ、この辺は難しいので、なんとなくの理解で良いらしい。

 正直、僕もよくわかってないよ。


 という事で結論。

 ここからは、注入インジェクションにより【捜索者シーカー】を撃滅するのに必要となる、諸々もろもろの確認と検討をする事となる。


 なお、ここまでの流れも整理しておく。


 チカさんと相談した当初のプランなのだが、次のようなものだ。


 目標として、撃滅を想定。

 戦って情報収集しながら、いくつか(チカさんが)想定している勝ち筋について、実現可能か確認・検討。

 いけそうなら実行。

 無理そうなら、適当に情報集めるだけ集めて帰る。


 至極しごく単純に、それだけだった。


 なお、撤退条件として、僕たち2名で対応不可と判断が付いた時点、または著しく想定外の状況となった場合に、即時撤退とし、別の位相へ転移ジャンプする。その事もあらかじめ決めておいた。


 で、続く初撃で確認したのは、敵が、観察で推察した通りである事。――つまり群体で単一個体を成す事、随伴無し、群体である事、ステータスが分析通りである事、幻覚などなく、物理攻撃が効く事、などなど、……まぁ、この辺は省略。

 ともあれこの時点で、『愚直に頑張る』という勝ち筋はほぼ確立。

 しかしちょっとリスキーかつ労力がかかるので、戦いながら、よりうまい具合に倒す方法がないか検討した。

 そのアプローチとしては、連携の妨害、動力を潰す、毒性の魔法の注入など。

 そうして種々しゅじゅの情報を得る中で、いい感じの手段を検討していたが、前2つはかんばしくなく。唯一、感覚器官からの注入のみが有力であることがわかった。


 かくして、いまに至る。



 という事で僕たちはその後、諸々もろもろの準備を整えた。


 最適な注入ポイントと注入タイミングの検討、計算。

 その後、自己破壊を起動トリガーするタイミングの検討(これは、伝染した状態を数秒程度しか維持できないらしく、その事による)、ほか色々。


 その詳しい様子は、……ま、割愛しちゃうよ。

 というのも、先ほどとさほど変わり映えもしなかったからね。

 これまで通り、単にひたすら避けて、【魔術具】を使って情報収集して。そんな感じでしかない。

 ただまぁ、敵の攻撃も、ちょっと苛烈かれつにはなってきており、例えば――。


 水平に巨大な青い円が描かれ、次には、垂直の極太レーザーが顕現。

 視界を縦に塗り潰す青白い円筒形。

 これさ、見たことあるね。

【神域】に居たランクBの【ひずみ】がやっていた攻撃だ。

 なかなかの威力・破壊力だけど、【捜索者シーカー】内部に、いくつか巨大な球状の部位が構成されており。たぶんそこから魔力? を供給する事で実現している模様。


 他にも、不可視の攻撃(たぶん隠密系? の魔法? とかを使ってるのかな)・攻撃を中空に出現させたり(【簡易転送器レッサー・ジャンパー】と同じ仕組みだろう)、などなど……。


 なんかもう、だいぶしんどい感じではあったんだけど、そのあたりはシャルロットの分析・サポートと、【魔法具マジック・アイテム】を駆使しつつ、――気合いで避け続けた。


 ていうか僕、昨日魔法少女になったばかりの初心者なんだよね……。


 自分でいうのもアレだけど、正直、相当頑張ってる気がするよ。うん。


 何はともあれ。現在、【捜索者シーカー】の白い体躯に重なるように、僕の視界には点々と赤い表示がなされている。


 これらの表示が、すなわち毒の注入ポイントであって、そこへと【可編凍結筐リライタブル・メモリキューブ】を送り込むという寸法。


 ちなみにいくつか不明点もあり。質疑応答てな具合で、ちょっと『毒性の魔法』について、心配な点もチカさんに訊いてみたよ。


 何がというのが、魔法少女の体も魔法でできてるらしいからね。

 僕たち二人にも伝染うつるのでは?

 そう心配したのだが、彼女曰く――。


『伝染しない。【ひずみ】って、魔力で動いてるんだよね。で、魔力ってそもそも、……まぁこの辺はいいや』


 チカさんは言葉を切り、少し逡巡しゅんじゅんした。


『――とにかく、連携取って群れるために意思疎通してる経路。この魔法は、その経路を使って伝染うつる』


「なるほど」だから、僕らには関係ないんだね。


 その他、懸念として――。


「逃げられるってコトは? ――つまり、敵のうち一部だけが別の位相? に転移ジャンプなんてしたら? 逃げた先でまたえちゃうのかな、とか」なんて訊いてみれば。


『ない。積んでるエンジン的にね』と、これも即答。


「はぁ」


 エンジン? というのがよくわからないが。まぁ、大丈夫との事なので、これも追い追い考えるかな。


 そんなやり取りを経た後。


「――準備完了」と僕が告げれば。


『こっちもオーケー』とチカさん。


『じゃ、よろしく!』


 との合図を受け。


 僕は再び【簡易転送器レッサー・ジャンパー】を起動する(先ほどのはててしまったので、別の新しいものだ)。


 それにより、再び僕の周囲に展開される、黒い魔方陣。


 その中心で、やはり先ほど同様、手作り魔法入りの【可編凍結筐リライタブル・メモリキューブ】を順次実体化し、次々と転送。


『パッチテスター』の時と同じく、ただしばらくの沈黙だけが続き。


 ほどなく、チカさんからの合図が入る。


『――よし、行き渡った。コマンド実行する』


 そしてそれは、合図と時を同じくしての事だった。


 突如、前方の景色が揺らぎ――。


 ヴン――。


 と、独特の音と共に、それはあらわれる。



 前方、数メートル先。


 そこに静かに浮かぶ、褐色の球体。


 魔法陣だ。


 上下に光輪。

 複雑な紋様とラインが神経網のように絡み合い、球状を成す魔法陣それ

 その外観。


 見覚えがある。


 チカさんの『子機』だ。――おそらく初撃とそれ以降、チカさんの攻撃にあたり『砲塔』として使われたらしいもの。


 なぜいま、それが目の前に? との思考はとどめる。


 すでに察しはついていた。


 ガゴンッ! と異音。

簡易転送器レッサー・ジャンパー】の、黒い魔方陣を透かした向こうで、子機を中心とし、筒状の魔法陣が多重に展開される。

 逡巡しゅんじゅんの間はない。

 次撃をはなつべく展開されたと見える、筒状の魔法陣それら

 その形状。


 僕から見てだ。


 すなわちいま、円の中心軸がとらえ――照準ターゲットしている対象は何か?


 僕である。

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成人男性、魔法少女として覚醒し固有魔法で最強となる 古根 @Hollyhock_H

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