春夏秋冬

紫雲 橙

君がいる

 満開の桜、地面に照りつける日差し、茜空に映える紅葉、体が凍えてしまいそうな寒さ……その全部の思い出に貴方がいるんだ。


 私は、想いを抱いて歩んできた。貴方に出会ったその日は、春だった。

 春に出会った貴方は満開の花咲くような笑顔で私の前に現れた。桜の精にさらわれてしまうのではないかと思うほどの満開な笑顔。

 その笑顔で私に友達になってくれと笑って言うの。その姿が眩しくて今まで一人でいた私には刺激が強すぎた。だから、逃げたのだ。それなのに、追いかけてきた。どうしても私が良かったんだって言ってまた笑う。

 

 どうして、そんなことを言うのだろうとそう思った。私が何をしたんだって、私が貴方に与えられるものはないって、そう応えたのだけれど、貴方は私の手をとり離そうとしなかったな。その諦めの悪いところに私が折れて友人になったっけ。


 夏には暑くて暑くてしかたなかった。けれど、貴方が誘ってくれるから私も外に出て遊べていたんだ。私が暑くて出たくないって言ったらかき氷とか家で作ってくれてさ。外で食べるのも悪くなかったけれど、貴方が作ってくれたものが一番美味しかったな。

 夏祭りの花火は綺麗で、貴方に出会った時の表情を思い出したよ。あの時言ってくれたこと、本当は聞こえてたんだ。聞こえてないって言ってごめん。恥ずかしかったの。

 また一緒に行きたいね。


 秋は、夕方の茜空の下での貴方の横顔が忘れられないよ。照らされててさ、とても眩しかったんだ。貴方の笑顔は次第に減っていったことは少し寂しくて私も苦しかったな。紅葉が散ったらすぐに寒くなったよね。


 冬になったら寒くて雪も降り始めて、あまり外にも出られなくなったね。雪遊び、貴方とならしてみたかった。私は冬が一番好きなの。冬はね、人といることの意味を一番感じ取ることができるから。

 寒くて人肌恋しいなってなった時に貴方がいる。その瞬間が私にとってどれだけ嬉しかったか分かるかな。でもね、分からなくてもいいの。私だけが分かっていたらそれでいいから。貴方がくれたマフラーをもっと巻いていたかったなあ。


 私が抱えていた想いはこれで全て。もう少し時が巡ったらまた春が来る。その時には、もう貴方には会えない。それでも伝えたかったの。

 たとえ、貴方が私を忘れてしまったとしても届けたいって思う。忘れることは悪いことじゃないから忘れてもいい。だけど、これだけは残させてほしかった。

 

 たった一つだけ貴方に届けたい言葉があった。君に届いてほしいの。


『私に出会ってくれてありがとう。泣かないで。君との季節私は忘れないから。また会ったら友達になってね』


「……ばか、清香きよか。忘れるわけないじゃないか。俺だって君との季節が大切だったんだから」


 結局泣かせちゃったかもしれないけれど、この手紙が貴方に届いてくれて良かった。絶対また会おうね。その時は病気に負けない強い身体になってやるからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春夏秋冬 紫雲 橙 @HLnAu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ