由紀子は正気だ。

 俺も正気だ。

 俺たちはようやく思い知っていた。


 この世界だろうが異世界だろうが、あの子がそこにいるなら場所はどこだっていいのだ、と。

 息子の命が消えた証拠をこの目で確かめない限りは、どこかで生きていると信じている。たとえもう二度と会えないとしても、信じている。



 一夜が明けて、由紀子は床から拾い上げた本の続きをまた読みはじめた。次の日曜日には、俺と一緒にビラ配りに行くという。


 俺は今、雅志の机に座ってノートの最後のページを広げている。

 物語は剣士が王の親衛隊を任されるまでに出世し、沢井さん似の初恋の女性と結婚するところで終わっていた。

 俺は散々迷った末に、思い切ってボールペンを手に取った。


 ラストの一文とエンドマークの間に、ちょうど良い具合に二行ほどの空きがあった。


「ごめんな。俺に文才はないんだ」


 俺は雅志に謝ってから、新しい最後の一文を付け加えた。

 大分欲張りかなと苦笑しながらも、文章はびっくりするほどスラスラと胸の奥から溢れ出てきた。


 ◆ ◆ ◆


『欲しかった幸せのほとんどを手に入れた剣士は、ある時、唯一残った望みを叶えることにした。幸いにもその方法を見つけたからだ。

 剣士は元いた世界に帰ることにした。

 両親に会うために。

 愛する妻と子と一緒に。』

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雅志くんが異世界にいっちゃったあとのお話 美鶏あお @jiguzagu

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