『最強蓋絵師の異世界召喚記』~マンホールカードで守護神チートな件について~

ソコニ

第1話『マンホールクロニクル~異世界と繋ぐ蓋絵師たち~』



「あっ!これは北陽市の新作!」


休日の朝、蒼井陽太は歓声を上げながら、道路上のマンホールに向かって一気にしゃがみ込んだ。スマートフォンを取り出し、丁寧に撮影を始める。


「ねぇ、お兄さん。そんなに下ばっかり見てて大丈夫?」


通りがかった小学生に声をかけられ、陽太は得意げに立ち上がった。


「いいかい!これはね、光灯祭をモチーフにしたデザインなんだ。この曲線の美しさ、色使いの妙、そして何より...」


「お母さーん、変な人がいるよー!」


小学生は母親の後ろに隠れ、急いで立ち去っていった。陽太は肩を落として苦笑する。マンホールカードコレクターとして、彼の熱意を理解してくれる人は少なかった。


だが、それでも陽太は諦めなかった。全国のマンホールカードを集めることは、彼の夢だった。各地域の文化や歴史が凝縮された、小さな芸術品。それを一枚一枚集めることで、この国の素晴らしさを再発見できる。そう信じていた。


「よし、次は駅前の新しいやつを見に行こう」


歩き始めた瞬間、足元のマンホールが不思議な光を放ち始めた。


「え...なに...これ...」


突然、視界が眩い光に包まれ、陽太の意識は闇の中へと沈んでいった。


* * *


「おぉい、無事か?」


目を覚ました陽太の目の前には、着物姿の美しい女性が立っていた。しかし、その姿は少し透けて見える。


「はい...あの、ここは?」


周りを見回すと、見知らぬ街並みが広がっていた。古めかしい木造建築が立ち並び、通りを歩く人々は着物や羽織を着ている。まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような光景だ。


「ここは異世界じゃ。わらわは北陽の守護神、光灯の巫女」


「え?守護神?異世界?」


混乱する陽太に、巫女は静かに微笑んだ。


「そうじゃ。お主の持つマンホールカード、あれは単なるカードではない。各地の守護神の力が宿った神具じゃ」


陽太は慌ててポケットのマンホールカードを取り出した。確かに、カードが微かに光を放っている。


「神具って...まさか、このカードには本当に力が?」


「試してみるがよい。カードを掲げ、わらわの名を呼ぶのじゃ」


半信半疑で陽太はカードを掲げる。


「光灯の巫女様...よろしくお願いします!」


その瞬間、カードから眩い光が放たれ、巫女の姿がより鮮明になった。


「おお、素質あるじゃないか。初めての召喚でここまで実体化できるとは」


巫女が感心したように頷く中、突然、遠くで悲鳴が聞こえた。


「た、大変じゃ!闇喰らいの気配がする」


「闇喰らい?」


「この世界を蝕む化け物じゃ。街の光を食らい、人々の記憶を奪おうとする。祭りの記憶も...文化の記憶も...」


巫女の表情が曇る。陽太は決意を固めた。


「行きましょう。僕にできることがあるなら」


* * *


街の広場に着くと、不気味な黒い霧が渦を巻いていた。霧の中心では、提灯のような形をした巨大な化け物が、建物の明かりを吸い込んでいる。


「あれが闇喰らい...でも、どうやって戦えば?」


「よく見るのじゃ。マンホールの上に立ってごらん」


言われるまま広場のマンホールに立つと、足元から温かな光が伝わってきた。


「このマンホールは、街と人々をつなぐ結び目。お主のカードと、わらわの力で、街の記憶を呼び覚ますのじゃ!」


陽太は深く息を吸い、カードを掲げた。すると...


「って、ちょっと待って!僕、こういう戦うの初めてなんですけど!」


「案ずるな!わらわがついておる!...って、お主、そんなに慌てんでも」


必死な陽太と、落ち着かせようとする巫女のやり取りに、見ていた町人たちから笑いが漏れる。その笑い声が、不思議と陽太の緊張を解いた。


「よし...もう一度!」


カードを掲げた瞬間、マンホールから光の柱が立ち上がった。その光は、まるで提灯が連なるように空へと伸びていく。


「これは...光灯祭の灯り?」


「そうじゃ。街の記憶が形となったのじゃ」


闇喰らいが不快そうに身をよじる。しかし、まだ力は足りない。


「もっと...もっと街の記憶が必要だ!」


陽太は叫びながら、周囲のマンホールへと目を走らせた。すると、それぞれのマンホールに違う模様が描かれているのが見えた。


「ここには街の歴史が刻まれている...商人たちの活気、職人の技、人々の笑顔...」


一枚、また一枚とマンホールの記憶が呼び覚まされる。光の提灯は、まるで祭りの列のように広場を取り囲んでいった。


「このままじゃ...記憶を...取り戻されるぅ!」


闇喰らいが叫ぶ。その声は、どこか寂しげに聞こえた。


「待って」


陽太は、不意に立ち止まった。


「巫女様、この闇喰らい...もしかして」


「気付いたか。そうじゃ。これも街の記憶の一つ。人々が忘れてしまった、古い祭りの形じゃ」


陽太はゆっくりと闇喰らいに近づいた。


「君も、この街の大切な記憶なんだ。だから...一緒に戻ろう」


ポケットから、もう一枚のカードを取り出す。それは、陽太が最初に見つけた北陽市の古いマンホールカード。カードには、今は行われていない古い祭りの絵が描かれていた。


「お前が...わかるのか?」


闇喰らいの姿が揺らめく。黒い霧が薄れていき、そこには小さな提灯の精が浮かんでいた。


「新しい記憶も、古い記憶も、全部まとめて今を作ってるんだ。僕たちと...一緒に灯りをともさない?」


提灯の精は、ゆっくりと頷いた。すると、広場中に浮かんでいた光の提灯が、虹色の光を放ちながら一つに溶け合っていく。


「わらわの力を使うがよい。今度は、記憶をつなぐ番じゃ」


巫女の声を聞いて、陽太は両手のカードを掲げた。古いカードと新しいカード、二つの光が絡み合い、大きな光の帯となって天高く昇っていく。


そして──


「これは...」


光の帯は、巨大な提灯の形となって広場の中心に現れた。提灯の中で、古い祭りと新しい祭りの光景が重なり合って映し出される。


「すごい...まるで光の博物館みたい」


見上げる陽太に、巫女が微笑みかけた。


「お主の想いが、記憶の架け橋を作ったのじゃ」


町人たちから歓声が上がる。提灯の精も、嬉しそうに光の中で舞い始めた。


* * *


「ふぅ...なんだか疲れたな」


「よくやった。立派な蓋絵師じゃ」


「蓋絵師?」


「そう。マンホールを通じて、世界と世界、過去と現在をつなぐ者のことじゃ。お主は初めての蓋絵師となった」


陽太は、自分の手の中のカードを見つめた。カードは温かく、かすかに脈打っているような感触がある。


「でも、まだ分からないことだらけです」


「それでよい。これからゆっくりと学んでいけばよい。わらわたちが力を貸そう」


巫女の姿が徐々に透明になっていく。


「あ、もう行っちゃうんですか?」


「心配するでない。また会えるさ。お主が必要なときは、いつでもカードを通じて呼ぶがよい」


巫女は最後に笑顔を見せると、光となって消えた。陽太は、新しく生まれ変わったマンホールカードを大切そうにポケットにしまう。


気がつくと、元の世界に戻っていた。いつもの街並み、いつものマンホール。でも、何もかもが少し違って見える。


「よーし」


陽太は、新しい光を湛えた目で空を見上げた。


「次は、どんな街の記憶に会えるかな」


ポケットの中で、マンホールカードが小さく光った。これは、新しい物語の始まりに違いない。


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