好きな人が恋する人は、親友でした。~和音の場合~

長月そら葉

第1話 好きな人の好きな人

 わたしには、好きな人がいる。

 高校入学と同時に同じクラスになった男の子、羽村慧はむらけいくん。自己紹介で笑顔が印象的だったけれど、日直で一緒になったことがきっかけで好きになったんだと思う。


「……あのね、和音かずね。聞いて欲しい話があるんだけど」

「どうしたの、美湖みこ? 改まって」


 わたしの目の前で頬を赤らめもじもじしているのは、親友の美湖。髪質と一緒でふわふわとした雰囲気の可愛い女の子っていう感じだけど、スポーツ万能っていうギャップのある子。中学で仲良くなった、大事な友だち。

 美湖と一緒にやって来たのは、放課後のファーストフード店。期間限定シェイクを飲みながら、親友の言葉を待つ。

 まさか、自分があんなにショックを受けるとは思わなかったけれど。


「私ね、好きな人が出来ちゃった……」

「ふふ、赤い顔して可愛い。美湖のハートを射止めるなんて、クラスメイト? 別のクラスとか、先輩とか? まさか、先生……!?」

「待って待って! ちゃんと話すから」


 想像飛躍させすぎと、美湖が笑う。よし、少し気持ちがほぐれたかな。


「わかってる。それで?」

「うん、あのね……っ」

「えっ……」


 思わず呟くように出てしまった声。シェイクを飲んでいた喉が、ごくんと鳴った。

 けれど、美湖は気づいていないみたい。よかった。


「羽村くん、笑顔が良いよね。美湖、好きになっちゃったんだ?」

「そうなの!」


 ――やめて。


「この前、急にお腹が痛くなって保健室に行ったことがあったでしょ? 休憩時間に、様子を見に来てくれたの」

「へぇ~。それはキュンとしちゃうね」

「うんうん。それで、ころっと落ちちゃった」


 ――どうして、同じ人なの?


「笑顔がキラキラしてて、結構人気高そうだよね。美湖、頑張らないとだよ」

「ありがとう、和音。和音に話せてよかったよ〜」


 心から安堵したように、美湖は笑う。彼女の笑顔はいつも優しくて、可愛らしい。わたしの癒しだったはずなのに、今は心がきしむ。

 だけど、わたしは心に蓋をした。だって、親友と好きな人が被ってしまったんだよ。ライバルになる選択肢もあるけれど、わたしには無理だ。


 ――まだ、大丈夫。諦められる。見守れる。


「応援してるよ、美湖。想い、伝わると良いね」

「ありがとう。和音、大好きだよ!」

「わたしも!」


 シェイクの入った紙カップで乾杯して、わたしたちは笑い合えた。


 ✿✿✿


 それから、美湖は少しずつ羽村くんとの距離を縮めていった。朝挨拶をしに行ったり、勉強が得意な彼に問題の解き方を教わりに行ったり。積極的なアプローチを見て、羽村くんの周りが美湖の気持ちに気付き始める。


「おい、慧。元原さんだ」

「本当だ。どうしたの、元原さん?」

「邪魔してごめんなさい。あのね、これなんだけど……」


 元原は美湖の名字。美湖が来たことで、羽村くんの傍にいた男の子が距離を取る。気を使っているんだな、と傍から見ていてもわかるよ。

 わたしと同じだね。

 自分の席に戻ったのは、田沼春矢たぬましゅんやくん。以前から羽村くんとは仲が良いみたい。


「和音、聞いて聞いて!」

「はいはい、今日はなあに?」

「あのね……」


 放課後になると、美湖はわたしの所にやって来る。そして、その日羽村くんとどんな接点があったのかを教えてくれるのだ。

 わたしから見たら、脈アリなんだけど。美湖はまだ気付いていないんだろうな。……ちくっと心が痛むけど、知らないフリをする。


 そうしていつの間にか、半年が過ぎていた。


「……和音」

「どうかしたの?」


 一月末、遊びに来ていたショッピングモールでお昼を食べていた時のこと。美湖が何かを決心した顔をしていた。

 ああ、とうとう来たんだ。内心でそう思ったけれど、わたしは気付かないふりをする。


「険しい顔して、どうかしたの。美湖?」

「わたし、バレンタインに告白する。だから、チョコ作るの手伝ってくれませんか!?」


 和音、お菓子作り上手だから。潤んだ目で頼まれたら、断れないよ。

 いいよと言うと、美湖はぱあっと嬉しそうに笑った。


「ありがとうっ!」

「どういたしまして。……美湖の想いが伝わるように、頑張ろうね」

「うん!」


 それからわたしたちは、チョコレート作りの材料を買った。来週の土日に、一緒に作ろうと約束して。


 ✿✿✿


 更に一ヶ月経たずして、スマホが鳴る。アプリを開けば、美湖からのバレンタイン結果報告だった。

 金曜日の放課後、羽村くんを呼び出して告白するんだと言っていたから、午後七時にもなれば流石に結果は出ているよね。わたしは意を決して、メッセージを読む。


『和音! 告白したよ! そしたら……羽村くんも私のこと好きだって!!!!?!?!!!?!』

『お付き合いすることになりました。本当に、和音のお蔭だよ。ありがとう!!!』


「そっか。……うまくいったんだね」


 学校近くの公園のベンチで、わたしは一人涙を流した。まだ、好きだったみたい。我ながら、諦めが悪い。


「……泣いてるのか?」

「え……?」


 心配そうな声に顔を上げると、が立っていた。

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好きな人が恋する人は、親友でした。~和音の場合~ 長月そら葉 @so25r-a

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