痣の色は、紫。葡萄酒にも似て、血の気を失った花弁にも似ている。
物語は、その「紫」を軸にして、静かに、しかし確実に読む者の皮膚を焼く。
筆致は、濃密で、時に粘膜のような生々しさを帯びながらも、決して下卑ない。
古刹、墓石、黒い詰襟……そこに立ち昇る熱は、幼い少年たちの胸中に燻る劣情と罪悪感。
言葉は甘やかで、視線は残酷。読んでいて、まるで誰かの秘密を覗き見てしまったような後ろめたさを覚えるのは私だけでしょうか。
「見たいんだろう。ほら、見て、────これが君が気になっている痣だよ」
この台詞は、読む者の理性を一瞬にして溶かします。
誘惑は、露わになることで完成する──その残酷な真理が、紫斑という象徴に凝縮されているのではないでしょうか。
皮膚の裏側で疼くような読後感。
ただの耽美でも、ただの残虐でも終わらせない、清冽さと退廃が共存する一編。
ひと夏の記憶のように、忘れられぬ痕跡を刻みつける作品です。
私達には倫理観や罪悪感、人から後ろ指を指されることに対する恐怖心など、色々なブレーキが備わっています。
ですが、そうしたものを全く気にしなくていいとしたら、私達は自分の欲しいものを、どこまで求めるでしょうか。
理性の世界では決して得られない美しさ、陶酔、抑圧からの解放、憧れへの接近、口外できない秘密――そうしたものが歪みの世界ではいとも簡単に手に入れられるのです。
正しく生きることだけが、人間の美しさとは限らないでしょう。
傷付きやすい私達の心は簡単に歪みます。
成熟しない子供の心なら尚更でしょう。
心の歪みもまた人間の愛すべき一面。
むしろ、その歪みこそが君を君たらしめるものであり、お互い、ここまでの拘泥に繋がる大きな理由になったようにも思われます。