人に翼

K.M

人に翼

第一部 実に馬鹿な思想


 鳥には羽があって、空を飛ぶことができる。当たり前だ。だけどこんな風に考えたことはないだろう。


 もしも、人に翼が生えたなら――?




第二部 サボり魔、誕生


 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムが授業の始まりを告げる。次の時間は数学だ。



「なのになんで俺は今図書室にいるんだろう?」



 知るか。自問自答ってこういうことを言うんだろうな。


 さっきの授業の最中にふと、人間に羽が生えたら、なんて馬鹿げたことを考えてしまった。それで終わればよかったのだが、何を思ったか、休み時間になったと共に俺は教室を飛び出して図書室に来ていた。


 何がしたかったのか。自分でもよくわからない。そんなことあるわけないのに、とわかっているのになんでだろう。どこか諦めきれない自分がいる。



「まったく、いつからそんなメルヘンチックな奴になっちゃったんだろうねぇ。」


「ほんとだよ。」


「そういうのは小学生くらいまでにしとけよな。なあ”早瀬翼守香”(はやせよすが)さんよ。」



 今、俺が授業をさぼっているのに危機感を覚えていないのはこいつらのせいだ。


 俺がクラスで一番仲の良い三人だ。



「わかってるよ空。」


「はあ?ほんとか?」



 このチャラい感じのが”雲上空”(うんじょうそら)。



「ねえねえ晴くんはどう思う?」


「いや流石にないとおもうけどねぇ。」



 語尾に小っちゃい母音付けがちなのが”天野晴”(あまのはれ)。



「そういう君はどう思ってるんだい?」


「僕もないとは思うけど、あったら面白いよね!」



 この純粋なのが”麻生紗羽”(あさなまさわ)。



「でももうちょっと見ておこうよ。」



 ここまで来て簡単に引き下がるのはなんとなくプライドが許さない感じがした。



「ま、俺は授業サボれるならなんでもいいけどなッ。」


「俺ももうちょっと見ていこうかなぁ。」


「僕も僕も!」



第三部 光る石


 結局、掃除も何もかもサボってそのまま帰路についた。



「明日怒られるのは確定だろうねぇ。」


「俺のせいにすんなよ~。」



 特に空。



「ふんっ。保証はしないぜ。」


「僕は自分の判断で残ってたからちゃんと自分で責任はとるよ。」


「紗羽……(ウルウル。」



 おっと涙腺が崩壊するところだった。


 話題を変えた方がいいのかな……?



「そういえばさ、昨日の@”’%&$って番組でさ……ってんんん!?」


「「どうした<んだい/の/んだよ>?」」


「後ろ!後ろ!」



 驚きのあまり俺は目を瞑った。



「どうしたんだよ?」


「何もないけどねぇ。」


「つかれてるんだよ、きっと。」



 え?どういうことだ?


 俺が目を開けるとそこには三人が言うように何もなかった。でも、俺は今確かに見たと思ったんだけどな。



「光る石が見えた気がしたんだ。」


「はぁぁ!?お前今日おかしいぞ!?」



 そりゃそういう反応になるだろうね。でもこっちだって驚きのあまり目を瞑ったんだぞ。



「やっぱり疲れてるのかなぁ?休んだ方がいいと思うよぉ。」


「いや、でも俺は確かに……。」


「疲れてるんだよ。今日はもう寝た方がいいよ?」


「……分かった。」



 よく考えてみればそうだ。光る石なんてあまりにも非現実的すぎるよな。そんなのは夢の中くらいにしとけって話だよな。



第四部 夢の中


 あいむすりーぴんぐ。そう、俺は寝ている。のに意識がある。てことは夢ってことなのかな??



「ん、これは……。」



 俺が向けていた視線の先には例の光る石があった。まあ夢の中だしな。夢の中くらいにしとけって思ってほんとに夢に出ることってあるんだな。


 俺はしばらくそんなくだらないことを考えていたが、次第に光る石への興味が大きくなっていった。


 ああ、この石をもっと近くで見てみたい。触りたい。


 石マニアでもなんでもないが、そう思わせるナニカがこれに宿っている気がする。それがなんなのかはわからないけれど。



「夢の中だし……大丈夫だよな?」



 ついに衝動に負けて俺は石に手を伸ばした。


 その途端、石がより一層光を増し、別の物に変わっていくように見えた。翼っていうか……羽のような、そんなものに見えた。


 まばゆい光を浴びながら、俺は羽に触れた。








 バサッ。


 俺はびっくりしたわけでもなんでもないのに飛び起きた。朝の五時。冬のこの季節では、まだ夜があけていない。


 背中に違和感を感じつつも、俺は照明を点けた。洗面台へ行く。顔を洗う。寝癖を直そうと鏡を見た。






 



第五部 変化

 四人のグループライムを見ると、まさに荒れていた。



【は!?なんか起きたら羽生えてんだけど!?】


【同じくです。何があったんですかねぇ。】


【すごいね!翼守香くんの言ってたことがほんとになったみたい!】


【ふざけんな!こんなんで登校できねぇよ!】


【一旦落ち着きませんかぁ?】


【すごいね!翼守香くんの言ってたことがほんとになったみたい!】


【二回目じゃねえかww】


【同じことを二回言ってて楽しいんですかねぇ。】



 紗羽がなんで二回言ってるのかは置いておいて、俺の言ってたことがほんとになったみたい??まさか、昨日のやつか??


 ……確かに人に翼が生えたら的なことは言ったけど。




 そのあといろいろ相談して、俺たちは今日は学校をサボって集まることにした。場所は学校の裏山。結構な高さがあって空に近い。



「で、翼守香。お前、何した?」


「俺?何もしてないって!」


「でもほんとに昨日翼守香くんが言ってたこととほぼおんなじことが起こってるわけだしなぁ。」


「翼守香が何かしたと思いますけどねぇ。」



 そうなのかもしれないけど俺は何も知らないぞ。マジで。



「まぁ強いて言えば……。」


「「「強いて言えば!?」」」


「今日の夢で……。」


「夢かよ。なんだ。」



 俺がせっかく喋ってやってんのになんだその態度は。空、そういうとこだぞモテないのは。



「続けてください。夢は何か不思議な力を持っているとも言われますからね。」


「うんうん!」



 ほら、空。こういう態度が望ましいんだぞ。



「えっとね、なんか昨日見た光る石が出てきて触ったら目が覚めた。そしたらこうなってたって感じ。」


「「「百パーセントそれ<じゃねえか/だと思いますぅ/だと思うよ>!!!」」」



 そんなにか?でも、他に思いあたる節がないからな……。



「とにかく!こうなったのは完全にお前のせいだ!ぜってぇ許さねぇかんな!」



 まずい。空が本気でキレてしまったらそのときはもう誰にも止められなくなる。どうにかして機嫌を取らなければ。


 と思っていたところで俺はある変化に気づく。白かった羽が、空のものだけのだった。



「空、それ……。」


「ああん!?っておわぁぁぁぁ!?なんで???」


「僕が見た限りではキレたときに黒くなりましたけどねぇ。」


「僕も見てたけどそうだったよ。」


「そうか……。」


「僕も見てたけどそうだったよ。」



 なぜか紗羽は繰り返した。



「え?ああ、うん。わかったって。」



 まーた二回言ってるよ。紗羽の中で流行ってんのか?


 じゃなくて、この羽って気持ちで色が変わるのかな?だとしたら怒りを鎮めれば白色に戻るはず……。



「空、迷惑かけてごめん!」


「ん、んん、まあいいけどよ。」


「怒り、鎮まりましたかぁ?」


「まあな。」


「でも白色に戻ってないね。」



 ということは一度変色したら元には戻らないってわけか。


 俺たちはその後、思い思いの感情を思い浮かべて羽を変色させた。俺は水色、晴は黄緑色、そして紗羽だけはなぜか白色のままだった。なんでだ?



第六部 空へ

 俺たちはずっと気になっていることを試してみることにした。その気になっていることとは、ずばり「空を飛べるのか」だ。



「よっしゃ行くぞぉぉ!!」



 バサバサバサバサバサバサ!!



「おおっ!?浮いたぞ!浮いた浮いた!」


「「「おお~っ。」」」



 どうやらこの翼は本物らしい。


 毒見するかのように空に試させた結果、本物だとわかったので、俺たちもぴょんと跳ねて、空中で必死に翼を動かす。



「浮くには浮くけど背筋めっちゃ使うな……。筋肉痛が酷くなりそう……。」


「確かにそうですねぇ。もう降りたほうがいいかもしれませんねぇ。」

もっともだ。


「なんでだよ!せっかく飛んでるんだから雲の上まで行ってみようぜ!」

まあ行ってみたい気持ちもある。


「僕も、行ってみたいなあ……。」


「うーん……。まあ数が正義ということで空まで行ってみますか!」



 俺も行きたいし!


 構造とか雨の仕組みとか説明されてたけどいまいちピンとこなかったんだよな。せっかくだし、自分の目で見て確かめたい気持ちが俺の中で勝った。


 俺たちは、少し休憩したのち、空へと飛び立った。




第七部 自由

「疲れた~。」



 ついに紗羽が折れた。紗羽は四人の中で最も小柄で、体力がないのだ。



「って言ったって今空の上なんだから休憩なんてできないぞ。」


「地上に戻るまでは無理でしょうねぇ。」


「我慢しろよ!」


「……はーい……。」



 紗羽は諦めたように言った。


 その後、俺たちは15分ほど飛んで雲の上までたどり着くことができた。雲の上には、期待通りというかやっぱりな的な感じというか、何もなかった。


 でも、なんでだろうな。この何もない空間が特別に見えるのは。



「すっごい広いな~っ。」


「当たり前ですけどねぇ。」


「すごーい!ほんとに何もない!」



 さっきから弱音を吐きまくっていた紗羽はいつの間にか元気を取り戻し、雲の上の景色に感激を受けていた。


 回復早いな。



「すごーい!ほんとに何もない!」


「……紗羽、疲れてるのか?」



 さっきから同じことを二回繰り返して言っている。俺よりこいつの方がどうも心配だな……。



「つかよ。こんな何もないところで俺たちは何をしたかったんだ?」


「わかんないよ。」



 口ではそう言ったものの、本当はちゃんとわかっていた。


 この景色を見に来たんだって。




第八部 夢神

「あ、あっちの方見てみて!」



 紗羽が皆に向けて言った。紗羽が指さした先の方の空が少し赤く染まっていた。



「夕焼けだ……。」



 今、言ったのは誰だろう。当たり前だ、と言いたくなったが、そんなこと、瞬時にどうでもよくなった。


 俺たちは、しばらくの間、夕焼けに魅了されていた。



 夕焼けは晴れ朝焼けは雨。いつかのおばあちゃんの言葉を思い出した。



「明日は晴れだな!」


「はあ?馬鹿じゃねえの?お前明日雪だぞ?」



 何もそこまで言う必要あるか?俺だって冗談で言ったつもりだったのに。空に冗談は通じないらしい。



「はいはい。じゃあそろそろ帰りますかねぇ。」


『ちょっと待ちなさい。』


「「「え?」」」



 誰の声だ?男性の声だった気がするんだが。


 声の聞こえた方を見ると、そこには紗羽が立っていた。



「え、紗羽……?」


「遅めの声変わりか??」


「なわけないでしょう。」


『我が名は夢神。この男の子の体を借りてお前たちと話している。』


「「「夢神???」」」




第九部 これは夢

『まず第一に、だ。』


「え?こんなにリアルなのに?」


『ああ。お前が光る石の夢を見て、それで驚いて一瞬だけ目が覚めて、その後また眠った。そしてその時の夢がこれだ。お前は今、ベッドの上で横たわっているのだ。』



 そうか。そうだったのか。全ては……夢。まあそうだよな。



「まて、じゃあなんで俺たちも意識があんだよ!」


「そうですよ、気になりますねぇ。」


『ああ、お前たちは私の暇つぶしのために少しこの夢に引き込んだだけだ。そして、この男の子もな。』



 最初からこれは全て夢だった……。そして紗羽の中の夢神がその夢を監視していたってことか。



『暇を持て余してるんでね。たまにこうやって人の夢の中に入り込んでいるんだよ。あ、それと……。』


「それと?」



 なんだ、まだ何かあるのか?


 この人神って言ってたから偉い人なんだろうなとは思うけど、偉い人だからって無理に話を長くしなくてもいいと思うんだけどな。



『時折、この男の子の様子が変じゃなかったか?』



 言われてみれば、紗羽は今日一日、同じことを繰り返し言っていたことがなんどもあった。


 あれは何か関係しているのか?



『いや、ただ私が入ってきたことに体が驚いて、バグを起こしていただけだ。夢から覚めればすべて戻るから安心しなさい。』



 そうか。紗羽が変だったのもこいつのせいだったのか。



『では、そろそろ朝だからな。目覚める時間だ。』



 俺たちの意識はそこで途絶えた。




第十部 日常……?

 バサッ。


 俺は飛び起きた。たしか、羽が生えた夢を見て、それでもう起きる時間だぞって偉い人に言われて……。



「そうか、全部、夢だったんだな……。」



 俺はがっかりしたような、安心したような気持ちになる。なかなか夢だったとは思えなかった。リアルな、夢だった。


 俺は照明を点けた。


 洗面台へ向かう。


 顔を洗った。


 寝癖を直そうと思って鏡を見た。
















 








<翼守香、空、晴、紗羽のトークルーム(4)


【おい、なんか翼、生えてんだけど!】


【僕も僕も!昨日の夢みたい!】


【昨日の夢、ねぇ……。】


【なんか羽が生えて飛んだんだよ!すごいでしょ!】


【どうやら本当にみんな同じ夢を見ていたようですねぇ。】


【マジかよ!】



【……。】


【……。】


【そういや翼守香は?】


【さあ?まだ寝てるんじゃないですかねぇ。】


【おはよ。】



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カクヨムコンテスト10(短編)の「お題で執筆!! 短編創作フェス」参加作品です。


初参加ですが、どうぞよろしくお願いいたします。


K.Mをこれからもよろしく!

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