スキマバイト駆け出しの俺、レベル99の称号を持つ伝説の英雄に遭遇する

sippotan

第1話 『英雄』参上

「前日確認が完了しました! 明日のお仕事は頑張ってください!」

労働条件確認のフローを済ませた俺はスマホを枕の脇に置き布団に入った。


スポットアルバイトアプリ『バイミー』は便利だ。

意外と空きがちな講義の合間、予定もなく暇を持て余している休日、そんな時間にアルバイトを申し込める。もちろん俺の都合がいいスキマに仕事がある……というわけでもないが、幸いにも俺の物件は都心に近いから受付中リストも多い、職を選ばなければ恵まれているだろう。さっき前日確認した仕事も今日のリストの中から選んだものだ。


仕事の内容は……

5駅先のショッピングモールで開かれるイベントの設営と運営要員だ。

「ショッピングセンターで開催するイベントの設営と運営を行っていただきます」

どんなイベントなのかは募集要項には書かれていないが、写真には射的とストラックアウトが写っている。【20kg以上の重量物運搬あり】のアイコンも表示されており、これがすぐに募集が埋まらなかった原因なのかもしれないが、まぁ写真の内容なら搬入出の時だけだろう。

……であれば楽な方だな。時給も1,800円プラス交通費支給と悪くはない。



過去に一度、普通のアルバイトに入った事もある。

アルバイトと言えば定番と言える某大手コンビニの店員だ。

だが、大学入試対策が大変になって今以上のシフトに入れないと言っても、

「いや! そこを何とか入ってほしいんだよ! ほら神谷さん無断欠勤しちゃってるからさ!!」と店長に度々引き留められる事にうんざりして半年もしないうちに辞めてしまった。

当然バックレなどではなく正式な手順を踏んで……である。

そこも今はほぼほぼバイミーの応援頼みになっていて、実はたまに俺も入っていたりするのだが。


いやでも、それは高校2年になりたての頃だったから5年前の話か。

ちょうどその頃にバイミーがスタートして、あっという間にアルバイトの主流になったんだな。今や登録者数は外国人を含めて2,500万人、実にアルバイトシェアの7割を占めるようになっている。今年の4月には超党派議員の働きかけで一部労働規制の緩和も行われた。

もはや日本を挙げてバイミーである……



翌朝6時、スマホのタイマーで起きる。

バイミーで働く上で身支度は大切だ。

シャワーを浴び、しっかり寝汗を洗い流し、下着を替え、昨夜に用意していたバイミー用の黒ズボンと紺のポロシャツを着込む。朝食をインスタントスープとマーガリンを塗った食パンで済ませ、上着を羽織ると早々に家を出る。

現場のチェックインは朝8時、最低でも10分前には到着するのが望ましい。


駅へ向かう通り道、朝日が射し空気は澄んでいる。が、そんな感傷に浸る事は無いぐらい見慣れた光景だ。

こうしてバイミーでスキマバイトを始めたのが約2年前、大学生活が落ち着いた頃からだ。学業との両立なのでフルタイムで入る時間は無く、アカウントの経験値は伸びずレベルは13である。


午前7時45分、バイミーアプリのマップに指示された集合場所、ショッピングモールの従業員用通用口に到着する。

俺は周りを見渡す、見た感じで40代ぐらいの瘦せ型の男性、20代ぐらいの女性、高校生ぐらいでメガネをかけた女性がいる。

まぁバイミーならではで、片手にスマホを持っていたり黒ズボン履いていたりと、自然と身なりや挙動で『バイミーさん』と分かってしまうのだ。


「おはようございますー」

俺は40代ぐらいの男性に声をかける。ハラスメント対策が当たり前の今、その方が安全牌であるからだ。

「あ、おはようございます。同じバイミーです?」

男性はそう返事をした。

「ですね、今日はお互いよろしくお願いいたします」

「もちろんです、お願いします」


このやり取りを聞いていたのか、20代ぐらいと高校生ぐらいの女性も寄ってきた。

「おはようございますー」

「お、おはよう……ござます」

20代ぐらいの方は明るめに、高校生ぐらいの子はテンション低めに詰まりながらも声をかけてきた。

まぁ、俺からすれば『挨拶をしてくれる』だけでもホッとはする。

出来ない人は本当に出来ずに黙り込んでしまう、そんなケースにも度々出会っているからだ。

「ははっ、皆さん若いですね、今日はボクが年長者ですかね」

40代ぐらいの男性がそう言うと、20代ぐらいの方が

「いえいえ全然若く見えますよ、気にしないでくださーい」と返す。


「バイミーで来られた方は集合して下さい!」

通用口のドアが開き、オフィスカジュアル姿のイベント担当者が出てきて俺たちに声をかけてきた。

4人は揃って通用口の前まで駆け寄る。

「まず最初にこのコードを読み込んで勤怠登録をやってください」

担当者が手に持っていたリングファイルを開き、コードが印刷されたページを見せてくる。俺はスマホのカメラで読み込み、バイミーアプリの勤怠登録に反映させた。

他の3人も続ける。

「おー、今日はすごいですね。皆さんちゃんと出勤されてます」

担当者がそう言うと、高校生ぐらいの子が怪訝な顔をして

「え……意外と、遅刻するの、多いんです……か?」と聞き返す。

「ですねぇ、今日のように4人いればいつも2人ぐらいは……」

担当者の答えに「そうなんだ……」と呟くと、

「ボクも結構バイミーで入ってるけど遅刻は多いよ、ちなみに何回目?」

「あっ……今日、で、えー、3回目です」

「3回か―、もうちょっと経験積むと分かるかなー」

「……すいません」

「あーウフン、仕事の話するからちゃんと聞いてね」

担当者の一言に、4人は背筋を張って姿勢を正す。

「まぁ、今日の面子がしっかりした方なので安心しました。というのも今日の現場は大変な事になりましたので」

大変な事に、この担当者の言葉に全員が困惑の表情を浮かべる。

それにしても大変な事とは……どうしても気になった俺は右手を挙げ、

「すいません」

「はい」

「大変な事とは、具体的にはどういった内容なのでしょうか?」

担当者はしばし沈黙の後、重い口を開けた。

「皆さんはバイミーの伝説と言われているあの『レベル99の神話』を知ってますか?」

そう話した途端、他の3人は驚きの表情を浮かべた。

「その方が本日、貴方達と共にエントリーしています!」

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