賽銭ドロをする天使に出会った件

XX

朝も早くにロードワークをしていたら

 朝早くにジョギングをしていたら。


 ジョギングコース上にある神社の賽銭箱前で


 賽銭箱に棒を突っ込んでるヤツが居た。


 ……賽銭泥棒だ!


 許せない!


「こらっ! 何をしている!」


 賽銭ドロはリュックを背負った汚いメスガキで。

 そのリュックには、蝙蝠の翼のようなデザインの飾りがついていて。


 ……悪魔?


 だとしたら、賽銭ドロとしては相応しい格好だな。

 頭の片隅でそんなことを考える。


「うわーっ! 離してーっ!」


 メスガキは真っ青になって暴れている。

 俺は


「賽銭はなぁ! 投げ入れた人の想いが籠ってるんだ! 賽銭箱と募金箱だけは、絶対に手を出しちゃなんねぇんだ!」


 そう、メスガキを𠮟りつける。

 メスガキには難しいかもしれないが、こういうことは言っておかないと。

 お賽銭に手を出すなんて最低だ!


 だけどメスガキは


「邪魔しないで! 神様から命令されているんだよ! やらないと僕は堕天使になってしまうんだ!」


 ……などと、何やらわけのわからんことを言い出した。


 神様だってぇ……?




 口から出まかせを言ってると思ったけど。

 嘘としては面白かったので俺は話を聞いてみようと思った。


 警察に突き出すのはやめてやるから、理由を言えと言ったら。


 俺の前で正座をして教えてくれたよ。


「僕は天界でヘマをしたから、地上世界に落とされたんだ」


 ヘマか。


「へマって何をしたんだ?」


「……見たいテレビがあって、天界会議をすっぽかした」


 舐めてんのか。


「そりゃあ、落とされてもしょうがないな」


「僕だってそう思ってるよ! でも、どうしても見たかったんだ! リアルタイムで!」


 ……変なこだわりがあるんだな。

 作り話でも、面白いわ。


「まぁ、それはいいや。……お前さんの事情は分かった。けど、見過ごすわけにはいかない」


 賽銭ドロは止めてもらう。

 そう通告する俺。


 メスガキは絶望的な顔になる。


「そんな!」


 そして神社を指差す。


「あそこに入ってるの、10円玉と5円玉ばっかりだよ!? ちょっとくらいいいじゃん!」


 メスガキが必死の訴え。

 神社……賽銭箱を指差して


 だけど俺は


「馬鹿言え」


 一刀両断。

 否定した。


「10円玉と5円玉ばっかりなのには、充分ご縁がありますように、という気持ちが籠ってるんだ。金額の問題じゃない」


「何を言ってんだよ!? そんなゴミみたいなお金入れられても、銀行に持っていったら両替手数料でごっそりいかれちゃうじゃん!」


 ……天使の設定の癖に、やけに詳しいな。

 まぁ、いいけど。


「大体、神様はホントのところなんて言ったんだ? 本当に賽銭泥棒をして来いって言って来たのか?」


 俺はメスガキに訊ねる。

 これで泥棒しろって言ったって言ったら、説教だ。

 神様がそんなことを言うはずがない。


 別に俺は信心深くは無いけどさ、そういう嘘は許せないんだ。


 そしたら


「……浄財の証を持って来いって」


 浄財の証ィ?


 また難しい言葉を使ってきやがって。


「だから賽銭泥棒しに来たと? 10円玉持って帰って、それが賽銭だって分かんの?」


「分かるよ。神様だもの」


 ……説得力は、あるな。


 ものが神様だしな。


 とはいえ。

 見過ごすかどうかは別だ。


 止めさせなきゃいけない。


 けれども……


 ここまで聞いておいて、頭ごなしに


 嘘吐くな!


 っていうのは何か酷い気がする。


 俺は考えた。


 考えて……




「あのオバさんだ」


「間違いないの?」


「ああ。1回やられたから」


 駅前で。

 募金を求めているオバさんがいた。


 俺は


「あのオバさんの募金なら、いくらでも持って行って良い」


 そうメスガキに教えた。

 メスガキは


「そうなんだね!」


 パァッと明るい顔になる。


 ……あのオバさんさ。

 災害に対する募金を集めているんだけど。


 真実は違うんだよね……

 何か良くわかんない団体の活動費を集めるための、偽募金なんだよ。


 一口1000円で金を求め、金を渡すと意味不明の主張が書かれた怪文書を渡される。


 あのときは「やられた!」って思ったよ。


 今思い出しても腹が立つ。


 なので……


 俺は、けしかけた。

 あのオバさんは、募金詐欺をしてるって。


 募金詐欺に引っ掛かってお金を渡した人は、浄財みたいなつもりでお金を出しているはずだし。


 それをあのオバさんから取り上げるのは、彼らにしてみればグッジョブだろ。


 しかし、ホントに行くのかな?

 行くわけ無い、って思って調子こいた気がする。


 なんだかすごく乗り気だぞ? コイツ。


 ……どうしよう?

 マジで行ったら……


 不安になりながら見ていると


 テーッと


 メスガキがダッシュを掛け。

 オバサンの下げてる募金箱をひったくって逃げていく。


「ぎゃあああ! この泥棒餓鬼ッ!」


 オバサンが大声を上げて、メスガキを追いかける。

 誰か捕まえてとは言わない。

 自分も後ろ暗いからだろうな……



 しかし……

 マジで……行きやがった。


 どうしよう……?

 これ、犯罪教唆になるんじゃ……?


 俺の血の気が引いていく……


 だけど。


 そのとき。

 天から光が降り注いで、メスガキを包む。


 募金箱を持ったメスガキは


「ありがとうおじさん! これで僕、天界に帰れるよ!」


 そう満面の笑みを浮かべて、手を振って来る。

 そしてそのまま、天に昇って行く……


 呆気にとられた……


 そんな俺の見ている前で、メスガキの背中から、白い羽……純白の翼が生え、大きく羽ばたき。

 天に帰って行った。


 マジで天使だったんだ……


「……神様って、本当に居たんだな」


 そう俺は呟き。


 これからは、もっと真面目に生きていくことにしよう。


 そう、頭の片隅で考えた。

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賽銭ドロをする天使に出会った件 XX @yamakawauminosuke

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