第2話
衝撃が強すぎてあれから魔法を使わずに帰路についた。
家、というより屋敷に入ると父親がいた。
僕はあえて目を伏せ、父親は何もなかったかのように僕とすれ違う。
…
この時間が最も辛い。
父からは褒められた事も、叱られた事もない。
僕から声をかけるなど、記憶の中では一度もなかった。
ただ、今日は…
剣を捨てたことだけは言っておきたい。
僕は通り過ぎた父の背中に向けて言う。
「あの…父上…」
ピタッと父親の足が止まった後、また歩き出す。
「僕はこれから魔法を使っていきます。剣は握りません。」
それだけ、ただ今後の方針だけを伝える。
父が振り向き、目を合わせて言う。
何年かぶりに父の顔を見た。
僕は無意識的にすぐ目を離してしまったので、この時の父親の顔は分からなかった。
「…ふぅ。ストレイタ家が魔法…か。」
父はまたスタスタと歩いていく。
「話は聞きましたわよ。あなたもう剣をにぎらないんですってね。ようやく身の程を弁えた、というべきかしら。」
不意に後ろから声がかかる。祖母だ。名前はヤーツ
基本は倫理上一夫一妻だが、法律的に特に制限は設けていない。
戦争による激化に伴い、子がたくさん産まれる分には国が困らないからだ。
僕らは少々複雑な家系だ。ヤーナは実兄であるシュウの本当の祖母にあたる人物だ。ややこしいのでまとめるのこうなる。
父:ルト
シュウの実母:ヤーナ
シュウの実祖母:ヤーツ
ユキヤの実母:マミ
ユキヤの実祖母:グラマザ
このうち、ヤーナとヤーツの陰湿な行動に嫌気がさし、マミとグラマザは別居している。
ユキヤもマミについていきたかったが、ヤーナの「本家で魔法剣を習ったほうが」という言葉によりユキヤだけ残ることになる。
当時は僕の処遇でかなり揉めたらしいが、結果は僕がここにいることが全てである。
おそらくヤーナもヤーツもユキヤをいびりたいだけだった。
ヤーナとヤーツは父とシュウの前では通常通り振舞っているが、こうしてユキヤにネチネチ嫌味を言うのだ。
父も気づいていると思うのだが…
「はい、僕は剣は今のところは握りません。あなたの言うようにまずは身の程にあったものにしようかと」
「ププッ。私のシュウより魔力量が大きいからと言って調子に乗っていますわね。いいですか?魔法は結局魔法剣にはかなわないのよ。歴史が証明しているように」
「わかっています」
僕は少し苛立ちを隠しながら言う。隠せているのか微妙なところだが。
「おい、ユキヤ!いつまでノロノロしてんだ!晩飯だぞ!!!」
遠くからシュウの声が聞こえる。
「わかった〜、今行くよ〜。それでは」
「待ちなさい。まだ私の話は終わっていません。シュウちゃまを差し置いてストレイタのトップになんて狙うなんて不可能よ。あなたにまほうけ「わかっています。僕にそのつもりはありません」…なら大人しくここで過ごすことね」
祖母はそう言ってリビングにスタスタと歩いて行った。
はぁ…。顔を合わせるたびにこのやりとりをしている気がする。
出ていけ、とは言わないのだ。
◇
リビングもかなり広く、縦6m、横10mほどの大きさの部屋で中央に大きい机がありその周りに椅子が置いてある、よくあるものだ。
家族で食事を行うのが国のしきたり、のようなものであり名家であるストレイタもそれに則っている。
カチャカチャと食事をする音が響く中、父親が口を開く。
「シュウ、学園の休みはいつまでだ?いや、質問が悪かった。いつまでここに滞在する予定だ?」
「夏休みは1か月。学園まで二日かかるのと、向こうでもゆっくりしたいからあと2週間くらいいようかなと思ってるよ。」
「ふむ。来週に魔法剣の大会がある。大会というより子供から大人まで幅広く出場するお遊戯会みたいなものだが。」
「でる!!!」
シュウがバッ、と父親の方は顔を向け即答する。
シュウは優秀らしいからね。学園外での実力がどの程度か知っておきたいんだろう。
父親はうむ、と頷くと、義理の母(または継母)にあたるヤーナがニヤニヤしながら言った。
嫌な予感がする…。
「そしたら大会ぜひユキヤも参加してみてはどうでしょう?えぇ、魔法剣が使えないことも知っていますけど、そのような大会であれば出てみてもいいのでは?」
祖母のヤーツもニヤニヤしながら行く末を伺っている。
この二人、僕に恥をかかす気でいる。
「ストレイタ家にユキヤという人物はおらん。」
「そうでしたわね。そういえば、ユキヤ・ユーザという名前の方がエントリーされていたのを思い出しましたわ。」
思い出すも何も大会の存在を知らなかっただろうに。
どうしても僕に恥をかかせたいらしい。
魔法剣の大会では、魔法は使用不可なのだろうか。
大会自体何も無かったことにして不参加を決めてもいいが、自分の中で逃げたという事実を作りたくない。
これは僕なりの意地だ。
なんとかして来週までにまともに闘えるようにはしないといけない。
◇
翌日、僕は手ぶらで森に来ていた。
手ぶらなのはそもそも剣を握る必要がないからだ。
(魔力解放)
目を閉じ、魔力を解放する。
ずっと抑えつけていた魔力が噴水のように噴き出る感覚がある。
噴水のように湧き出ている魔力を、包み込むようなイメージで制御する。
震えていた大気が静かになるのを肌で感じる。ゆっくりと目をあけ、森を視界に入れる。
さて、これからどうするかな。
まずは殺傷力を抑えないとな。魔力斬だと魔力の刃が一直線に突き抜けてしまうから、剣をとどめるイメージ…。
目の前に三日月のような魔力がフワフワと浮く。
さて…これはなんだろう…
魔力を制御して三日月の魔力をくるくると回しながら考える。
ただの魔力を形にしたものになるが、目には少し空間が歪んでいるようにしか見えない。
木…を切ろうと思ったがもし切れてこっちに倒れてくるなという危機感が働き、葉っぱに触れる。触れることは出来るようだ。
刃のようにスパッと切ると、葉っぱは二つに切れハラリと落ちる。
魔力刃と命名しよう。
地面はどうだろう?
葉っぱを切る勢いで魔力刃を地面にぶつける
ブワッ!っとした感触を感じ、地面が抉れはしたものの魔力刃が拡散してしまった。
再イメージをして魔力刃を生成しなおす。
所詮は魔力の塊だ。魔法剣が発する魔力波と変わらない。
威力も同じだろう。
複数作ることは僕の魔力制御的に限界のようだ。
魔力刃をクルクルと回しながら考える。
魔法により生活レベルの炎や水は出せるという。
僕にはその手段やイメージがない。
魔力を形にすることは可能だが、魔力を別の物質変えた事が出来ない。
そもそも魔力を制御して魔力刃に出来るだけで精一杯だ。無理して魔力が爆発するわけにはいかない。
大会までに魔力刃が拡散して再発動するまでの速度を上げないといけない。
2連撃なんてされたらどうしようもないからね。
大会までは魔力刃を徹底的に練習していこう。
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