第1話
ゾワッ!!
…!?
身体が…!?
…気のせいか。
殴られすぎて傷んだだけかもしれない。
頭が痛い。身体も今までの身体じゃないみたいだ。
ユキヤ・ストレイタは庭の芝生に横になっていた身体を起こす。
横になっていたという表現は正しくない、横にされたというべきか。
「へ、起きたか。この程度で気を失うなんてまだまだ鍛え方が足りねぇんじゃねえか?」
「…っ」
剣を肩に担ぎ、そう言って見下げるシュウ・ストレイタ。
ユキヤの兄にあたる人物である。
シュウの歳は14歳。ユキヤはその二つ下で12歳だ。
少し話は変わるのだが、魔法剣学園に通うのは14歳からだ。卒業自体は20歳で合計7年間。
シュウは現在学園に通っており、今は夏休みの時期なのだ。
シュウが学園で教わった(といってもほんの少しなのだが)ような事をユキヤ相手に試していた。
「ちっ…さっきは急に身体が変わっちまった気がして思うように動かなかったな。おい、立てるか?」
「だ…大丈夫。一人で立てるよ。」
「そうか。じゃあもう一回いくぞ。剣を構えろ」
この兄、酷いようで優しいのかよくわからない。
父がユキヤに対して無関心なのだが、シュウ兄さんは案外兄をやってくれている気がする。
僕は剣を構える。
魔法剣…魔法を剣に宿し剣技で戦う。
少し前までは魔法の時代だったという。
しかし今は魔法はほぼ、というか全く使われていない。
なぜなら
・魔法師は火の玉を飛ばす、等の魔法を使えるが回数が限られており、大魔法師と呼ばれている者でさえも発動できる回数は20に満たない。
・身体強化等の魔法も存在するが、そもそも魔法士は剣を握らない。
これが大きな理由だ。
戦争において、魔法士が集団で魔法を使った場合、とてつもない威力を出す。剣士30〜50人ほどは死んでいたのではないか。
故に魔法が使われていた。
だが後に開発された魔法剣が全てを覆した。
魔法剣はその名の通り魔法に剣を宿し振るう。
魔力を纏って剣を振えば、魔法を使うよりも簡単に魔力波というものを飛ばせてしまう
。一回纏えば剣を振るう回数により変わるが、一般的な回数だと15分は持続する。
射程こそ短いものの、(大体3mほど)魔法を断ち切り、なおかつ魔法に使う分の魔力を身体強化に使えるからだ。
魔法を魔力波で断ち切り、なおかつ剣を握るが故に光る身体強化がある。
剣こそ特別な物が必要だが、魔法を宿してしまえば壊れることなどあまりない。
魔法剣が流行ったおかげで戦争は激化の一途を辿る。死者が増加し決着がつかないまま休戦状態となる。
それがユキヤの住むウィンドウ王国と、その西にあるリナクス王国である。
さらにいうとウィンドウ王国西区に住むストレイタ家の魔法剣が猛威を振るっていた。
シュウも才能のある一人だったが…
「ユキヤ。俺たちストレイタ家の魔法剣は無だ。俺たちだけの魔法剣が全ての魔力波を断ち切れる。代々魔力も多い。剣さえ振えば俺たちは最強なんだ。」
「兄さん、僕には…魔力を剣に流せないんだ。魔力を使おうとすると暴走してしまう。」
ユキヤにも例外なく魔力が多かった。
いや、多すぎた。故に制御ができない。
「そうか…」
シュウ兄さんは一言だけ言って僕との距離を一瞬に詰める。
ガキンッ!!
剣に魔力は纏わされていない。だが身体強化している分圧倒的にシュウ兄さんに分がある。
僕はまた吹き飛んで芝生に叩きつけられてしまう。
「ユキヤ…お前に剣の才はねぇ。いや。制御に意識を持っていかれてまともに戦闘もできねぇ。その無尽蔵にある膨大な魔力も使えねぇ。そのままだと、父さんはお前を…」
「僕を?」
「いや、なんでもねえよ。やっぱユキヤ相手だと相手にすらならねぇ」
そう言ってシュウ兄さんは剣を持って家に戻っていった。
自宅の訓練場でも使うのだろう。
…っつ。身体が痛い。
◇
場所は変わり、自宅とは大分離れた森に来ていた。
森には魔物や動物はいるが、ここにはいない。
ユキヤは目を閉じ、意識を集中する。
「ふぅ…魔力解放」
大気が震える。森が轟く。
ユキヤの凄まじい魔力で虫、鳥、魔物、動物全てが逃げてしまったのだ。
ゆっくりと目を開ける。
視界で得られる情報に思考が少しもっていかれるだけで魔力が暴走しそうだ。
普段を魔力を制御する、というより抑え込んでいる。抑え込むだけならそんなに意識しなくていい。
ただ、抑え込んだ魔力を使おうとすると話が変わる。
半分だけ魔力を抑え込もうとしたら余計難しかった。抑え込むのと制御するのどちらもはできなかった。
制御だけでようやく目を開かれるようになってきたのだ。
これで…手を少しずつ…上げる…
ゾワッ
くっ…だめだ…身体を動かすと意識が…
意識を魔力に集中する。
魔力が少し安定して制御すると、別のことを考えれるようになる。
シュウ兄さんから聞いた。
学園にはシュウ兄さんより強い人が同学年に5人はいる。
僕みたいに魔法剣が使えない人もいるが、家系的に研究者よりになるという。
研究のエキスパート。魔法剣のエキスパート。
他にもたくさんあるだろう。
だけど僕は?
ストレイタ家では魔法剣のエキスパートしか考えられていない。
他の道を探しはしたけど、父さんが全てをシャットアウトしてしまった。
僕には本ではなく剣を持たせている。
12年間ずっと剣を持ってきた。
いいな…他の道。
剣以外を握ってみたい。
『まずは剣を捨てればいいんじゃない?』
不意にどこからか声が聞こえてきた。
男の人の声。歳は…わからない。若いひとの声だ。
剣を捨てる?
考えたこともなかった。剣を持とうとしなければいいんだ。
剣がなくても、僕なら…
(魔力斬)
魔力が震える。
目の前にある木が…綺麗に切り倒されていく。
そうだ、剣なんて捨ててしまえばよかった。
不動の魔法師誕生の瞬間であった。
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