つよつよメンタルの作り方!

水の月 そらまめ

第1話 この職場やばいかもしれない。



 俺は先輩天使と一緒に、神様へ目を通していただかなくてはならない書類を持ってきた。

 しかし、何やら取り込み中のようだ。

 俺たちは神様の滲み出る、慈悲深い所作と行いを目に焼き付けるべく、邪魔をしないように足を止める。



 5分あれば貴方も強強メンタルの持ち主に!?

 これは見逃せませんね、必見ですよ!


 では。

 手を合わせてください。


 次に目を瞑ります。


 ゆーっくり呼吸をして、よく吐いて、吸って、吐いて〜〜、ゆっくりと。



 意識を指先へ。暖かな体温を感じてください。

 背筋を伸ばし、頭の上をピンと伸ばします。


 頭を撫でられたことはありますでしょうか。

 意識を頭のてっぺんからゆっくりと、おでこへ持っていきましょう。そして、耳へ、次に目へ。鼻に意識を下げて、人中へ。……はい、唇に下ろしましょう。ついでに顎がとんがってるのまで感じてください。


 すーっと首に意識を下ろします。


 あーーーーー。と喉を震わせ、その震えを感じてみてください。声は出ていますか。


 呼吸を忘れないで。ゆっくりと意識を鎖骨に下ろしましょう。

 手を膝に下ろします。

 鎖骨を意識して、そこから右へ、肩をなぞるように意識を向け、筋肉を感じながら、肘に下ろしていきます。慣れないうちは反対の指でなぞるといいでしょう〜。

 さぁ、肘から手首へ。

 親指の筋肉をなぞるように意識を向け続け、血の巡りを意識しながら、血管をなぞるように。人差し指、中指、薬指、小指と意識を向けていきます。


 手首に戻ってきたら、筋肉を感じながら肘へ。そして肩へ戻っていきましょう。


 反対側も同じように。


 呼吸を忘れないで〜。ゆっくりと意識を鎖骨に意識を向けて。

 そこから左へ、また肩をなぞるように意識を向け、筋肉を感じながら、肘に下ろしていきます。肘から手首へ。

 親指の筋肉をなぞるように意識を向け続け、血の巡りを意識しながら、血管をなぞるように。人差し指、中指、薬指、小指と意識を向けていきます。


 手首に戻ってきたら、筋肉を感じながら肘へ。そして肩へ戻っていきましょう。


 鎖骨から胸へ。


 胸から丹田たんでんでストップ。

 丹田はおへそのちょっと下辺りにあります。背筋を伸ばして、呼吸を止めないで。ゆっくり吐いて、吸って、吐いて〜〜〜。


 身の内にある、魔力を感じましょう。人間には必ず癒しの力が宿っています。

 体調が悪い場所があれば、そこに手を当てましょう。ぽかぽかと暖かくなるのが感じられるはずです。


 吐いて〜、吸って〜。


 意識をすーっともっと下げていきましょう。腰回りをグルングルン球が回るように意識をして、骨盤から太ももへ。筋肉を意識してくださいね〜。血が巡るように、意識もゆっくりと巡らせていきますよ〜。


 太ももから膝にきましたら、脛を通って足首へ。ゆーっくりとやっていきましょう。

 足首まできたら、意識を踵に下ろします。

 大地を踏み締める大事な踵ですよ〜。大事にしましょうね〜。


 手の時と同じように、足の親指へ意識を向けていきましょう。血が巡るように、絵を描くように、人差し指、中指、薬指、小指。


 足首に戻したら、ふくらはぎを通って、膝へ、膝から太ももを通って丹田へ意識を戻しましょう。


 ゆっくりと息を吐いて……。吸って……。吐いて〜。



 ゆっくりと目を開けてください。


 貴方は今そこにいます。そこで生きています。それは素晴らしいことです。



 少し元気が出てきた気がしませんか。口角を少しあげ、あらかじめ用意していただいた鏡をご覧ください。


 笑顔です。


 笑うことは万病に効きます。私が保証しましょう。

 さぁ、心ゆくまで休み。やる気が湧いたら冒険へ飛び込むのです。小さなわくわくを探しながら、今日もゆる〜く頑張っていきましょう。



 あれ? 思ってたのと違う……。

 俺は落としそうになっていた書類を整える。


「……先輩。何やってんすか、あれ」


「あぁ、人間に自分を取り戻させるために、神様が自ら配信動画を撮ってんだって」


 先輩のその目に、あまり尊敬の意を感じられなかった。

 俺は純白の翼を震わせる。


「へ、へー。動画配信……。あっ、確かに最近の魂は幼いのに、老化が進んでますもんね。人間たちに親身になる姿っ、さすがです!」


 そうか、そういうことだな!

 先輩は少し遠い目をした。


「そうだな……。神様さ、他にも、『失敗に効く薬』とか、『魂の成長は恥の数』だとか、なんか色々動画アップしてるらしいよ」


「神様さすが過ぎます。人間たちの事に、そこまで親身になってるなんて……!」


 俺は感動のあまり涙をこぼした。

 自らの時間を削ってまで、人間たちに施す慈悲深さ。俺も見習いたいっ。

 その神々しさを感じていると、先輩が俺の信仰心を試してくる。


「でもな。神様もそっちにのめり込んじゃってて、こっちの仕事は溜まりっぱなし」


「か、神様もですかっ!?」


「草生えるw」


 涙が吹っ飛んだ俺は、先輩をジトーと見つめた。

 いま、先輩変な言葉使わなかったか?


「なに?」


「いえ、別に……先輩も結構人間にハマっちゃってる感じですか?」


「…………人間のコンテンツ、すげーよな」


 しみじみ言いながら、先輩が翼を羽ばたかせる。

 俺は何度か見ただけだが、人間の持つ知恵と創造力は素晴らしいものだ。悔しいが、そう認めている。

 だから俺は「凄いですね」と頷いた。


 その刹那、黒い羽が目の前を通り過ぎて行く。


「え?」


 飛んできた方向に視線をやると、先輩の翼の生え際が黒くなっていた。俺は目を丸くし、『何故』に気づくとブルリと身体を震わせる。

 先輩は俺の様子に微笑む。


「努力はするが、俺はもう後戻りができる気はしない。お前は気をつけろよ」


「人間が凄すぎて、……恐怖すら感じます」


 俺たちは次の動画を撮り始めた神様に背を向けた。


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