第41話(最終話)ドバイの空港にて

「でも本当に良かったんですか? 大学をめちゃって」


「もちろん」


「それは私も嬉しいんですけど、すぐに日本に戻るつもりだっていいましたよね?」


「ああ、ちゃんと覚えている」


「だったら……」


 二人が立っているのは中東の国際空港。機械兵器の活動がおさまったことで、人の移動の制限も緩和されてきていた。多いとはいえないが観光客の姿もそこそこ見えていた。強烈な日差しに乾いた空気。日本を遠く離れた異国の地に二人はいた。


「未来というのは予測不能だろ? だからな。もうお前と離れる気は俺にはないし、それに俺はあのときのお前の返事をまだ聞いていない。俺はちゃんと自分がした約束は守ったぞ」


「ああ、あの『戦いが終わったら』っていう……。はい。嬉しかったです。で、でも、私が目覚めてすぐの、それにみんなのいるあんな場所で急にをしてくるなんて予想できないじゃないですか! わ、私にも心の準備というか、そ、その、そういったことはまずはお付き合いをしてからだとかなんとか、世間様的せけんさまてきにはいいませんかね?」


「だが、俺は三年間毎週、お前の元に通い続けた。これは期間としては申し分ないのではないだろうか? それに断る気はないんだろ?」


「うっ、それはそうなんですけど……」


「それにちゃんとご両親には挨拶も済ませているしな」


「ご両親って……。まあ、なんかお母さんが大喜びしてましたね。お父さんは私が帰ってきてからの大歓喜……、そしてそこから一転しばらく引きもりおじさんになってましたからねえ」


「そんな引き籠もり玄武先輩に一発、ちゃんとなぐられたのが俺」


「ふふっ、お父さんがあんな漫画みたいなセリフをいうなんて。で、冗談だと思ったのに思いっきり腕をブン回してましたしね。あれ、かなり痛かったでしょ?」


「ああ、先輩は本気で俺を殺す気だったのかもしれない……。美咲さんの言葉で少し拳の軌道が変化したから俺はいまここに立っているんだろうな」


「二人は仲良しなんですよね?」


「少なくとも俺は……」


「なんかの悪口いってなかったか?」


 突然二人の背後からよく聴いた声がした。


「げっ、お父さん! どうしてこんなところにいるのよ!?」


「ん? ま、まあ、な。このドバイの知り合いに呼ばれたもんだからよ」


「あやしい」


 ジト目で見る娘の視線に耐えられないのか、目を合わせられない様子の玄武。


「これは、ドバイの王族にでも知り合いが?」


 いろいろと察することのできる秋山が調子に乗ってそう言ってみた。


「て、てめえ、まだを俺は許可した覚えはねえぞ!」


「では、とでもお呼びすれば」


「くっ、てめえはこの中東の地に埋めて、日本に帰れねえようにしてやる!」


「なんと? それは勘弁かんべんっす!」


 周りの目も気にせず子どものように走り回るふたり。それを笑顔で見つめる楓。


「ああ、あの二人はいつまで経っても中がおよろしいご様子。これはも退屈はなさそうですねえ」


「あれ? レンさん? それに黒田センパイも。どうして……」


 再び、そんな場所にいるはずのない人の声に驚きを隠せない楓。


「楓ちゃん、楽しそうね。ああ、私はダーリンの行くところに着いていくだけよ。昨日までフランスにいたんだけど、急にダーリンが中東へ行かねばっていうものだから」


「楓さまも気になさっておられるのでしょう。世界線が異なるとはいえ、人類の滅びるルートはまだあるかもと」


「そ、そんな大したことじゃないけど……。まあね。あのときの私と紅葉ちゃんの呼びかけに反応しなかった個体がいるのは間違いないし、それに……」


「そうですね。この中東での出来事は私もよく覚えております。がもしこの世界にもうまれていたなら……。そう考えてしまうのは仕方のないことです。ですが調べてみる価値はあるかもしれませんね」


「何? その出来事って?」


「ああ、弥生やよいにはまた後で教えてあげますよ。ですが、それは私と楓さまのいた機械しか残らなかった世界においての最大の脅威。私たちはそれから逃れてきたといってもよいかもしれません。時代的には遥か先のはずではありますが、もしアレの手がかりでも見つけることができるなら……。この世界線で同じことが起こるのかは分かりませんし、それが杞憂きゆうに終わるのではないかとも私は思っております」


「ぜんぜん分からないわねえ。まっ、私はダーリンと一緒なら何だっていいんだけど」


 本当に関心の無さそうな黒田の顔を見て、気分を変えようと決める楓。


「でも、黒田先輩。幸せそうでいいですよねえ」


「そうよ。私は世界一幸せって感じかしら。そういう楓ちゃんだって負けず劣らずハッピーじゃないのよ。少佐はあんな感じだけども」


 はしゃぎすぎたせいで空港の警備員に注意されている二人を眺めながらそう言う黒田。


「ははっ、そうです。負けないくらいに私も幸せですよお。こんな時間が私に訪れるなんて正直思っていなかったし、まだ夢の中にいるような感じなんです。だから、この幸せが少しでも長く続くように僅かな可能性、それは私が想定できる範囲のことですけど。悪いことが絶対に起きないように確認しておきたかったんです。それが私がここに来た理由です」


「微力ながら私も楓さまのためにご協力させていだたきましょう。もちろんこれは愛する弥生のいる世界を守るためでもありますからお気になさいませんよう。では、私たちは宿泊の手続きに向かいましょうか、弥生」


「はい、ダーリン」


 楓は離れていく二人の姿を笑顔で見送っていた。


「どうした楓?」


 警備員から解放されたのか玄武の声が後ろから聴こえた。


「ん? どうしたじゃなくって、いい大人が二人してなにしてるのかしら」


「うっ、それは……。こいつがあおるから……」


「そうでしたっけ? でも、先輩がこっちに知り合いがいるっていうのも本当らしいっすね。現地の言葉をあんなに流暢りゅうちょうに使えるなんて驚いたっす。まあ、アメリカ大統領がマブダチみたいなもんだし、石油王に知り合いがいてもおかしくないっすかね」


「石油王とまでは言わんが、それに似たような奴からどうしても俺に調べて欲しいことがあるって頼まれてな。用意してくれたプライベートジェットで飛んできたら、前たちを偶然見かけたって感じだ。あそこに停まってるでっけえ車が俺が待たせているのだな」


 それは車に関心のない楓でもひと目で超高級車と分かるものであった。正確には楓の頭の中の記憶データにはその詳細があるのだが、意識しなければ普通の女の子としての興味の範囲に理解を抑えることができる。


「お父さん、その調べないといけないことって何なの?」


「こっから南に向かったところにアル・アインって大きな街があんだろ。そこに遺跡群があるんだがが見つかったらしい。骨董品みてえなのだったら考古学者にでも頼めばいいんだろうが、どうもそういう状況じゃねえらしい。そいつによると俺が適任だろうってことらしいが、詳細は教えてくれねえんだ。大戦末期のくさえんだし、顔だけは出してやろうって思ってな」


「アル・アイン? それって楓が行こうとしている場所じゃないのか」


 秋山が重なる偶然に驚いた顔をしてそう言った。


「う、うん……。でも、お父さん。その知り合いってどういう人なの?」


「大戦時のってとこだな。秋山も知ってるぜ、サイードって奴だ。日本で一緒に戦ってたことがある」


「あいつが、中東の英雄!?」


「だろ? そんときの戦い方をこっちで取り入れてな。まあ、命知らずのサイードだ。カリスマ性もあったしありえねえ話でもなかったってとこか。その後はイスラエルに渡って勉強し大企業を作り上げちまった。 何てったっけか、サイ……」


「お父さん、それってサイデックじゃ……」


「おう、そうだ。さすが楓は物知りだな」


「会わせて! サイードにいますぐに会わせて!」

 

「へっ? どうした楓」


「えっと、あの車ね。じゃあ行くわよ!」


「おい……」


 驚く玄武と秋山を置いて真っ白な高級車の方へ歩き出す楓。二人も慌ててその後を着いていく。



 また、新たな物語が日本を離れた中東の地で始まろうとしていた。




 了


★★★★★

 

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 企画参加用に書いた作品ですので、連載はいったんここまでとします。機会があればこの続きもどこかで書くかもしれません。そのときはどうぞよろしくお願いいたします。


 この作品以外にも十万字ほどのSFやファンタジーをいくつか書いております。

 卯月の作品に興味を持たれましたら、ぜひそちらにも目を通していただけたら幸いです。


 読んでいただける方がいらっしゃるということが、作者の執筆の原動力であります。たくさんの方に楽しく読んでいただける作品を目指して日々執筆活動に取り組んでおります。


 繰り返しになりますが、お読みいただけたことに感謝を。


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終末世界の片隅にその花は咲いていた 卯月二一 @uduki21uduki

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