同接数世界一のクソゲーで、俺は敵を倒してアイテムをゲットする

解体業

同接数世界一のクソゲーで、俺は敵を倒してアイテムをゲットする

 このゲームはクソゲーだ。

 

 アバターすら選べない。

 

 ランダムに割り当てられたアバターが、綺麗なら選べなくてもいいが、俺のアバターはとても醜かった。醜いまま固定かというと、それは違っていて、多少の変更はできる。ただし、金が必要だ。


 このゲームは金で強さが決まる課金ゲーだ。


 アバターの話で、課金ゲーの片鱗は分かるだろう。アバター以外でも、何をするにも金が必要だ。金を持つものが強くなり、持たざるものは弱くなる。そして、俺に金はほとんどない。残酷なゲームだ。そりゃあ、こんな気分にもなる。金がある奴だって、同じようになるかもしれないが。


 難易度だってハードだ。


 イージーだと言う奴もいるが、俺にとってはハードだ。それは絶対に揺るがない。多分、イージーなんて言う人間は、自分が恵まれた環境にいること気付けない、あるいは気づく必要がない愚かな奴なのだろう。

 

 チュートリアルは用意されているが、そんなものは役に立たない。まあ、このゲームに仲間が存在しないことは学べたのだが、それ以外に記憶に残っているものはない。



 序盤で温存し過ぎたのだろうか。



 攻略情報さえあれば、あんなことはしなかったはずなのに……。



 俺には、一発逆転を狙うしかない。それ以外の道は見えない。



 ゲームなら、敵を倒せばアイテムが得られる。


 敵を倒して、レアアイテムをゲットできれば、俺にも逆転の目はあるかもしれない。


 そうか、敵を倒そう。



 敵を倒すためには武器が必要だ。


 武器はショップで売っている。金はわずかな手持ちでも足りるはずだ。


 まずは、財布片手にショップへ行こう。ここからショップまでは、敵には巡り会うが、敵は俺のことを敵と認識しない。つまり、敵から攻撃はされない。だから、ショップへは軽装備で十分だ。



 敵が俺を攻撃してこないのが不思議に思えてきた。敵も同じゲームをプレイしているに違いない。なのに、俺みたいに行動しない。


 深く考えるのはやめることにした。たとえ敵が俺を攻撃してこないとしても、攻撃してきたとしても、俺のすべきことは変わらないはずだ。



 ショップにたどり着いた。所持金と相談しながら、武器を買った。武器の購入後、残額を確認したが、これだけあれば十分だ。もう、これから先に金の心配はない。


 敵を倒す。


 あとはこれだけだ。倒す場所は決めてある。当然だが、敵が密集しているスポットへ行った方が敵は倒しやすい。


 残金全てを移動費に使う。移動時間の短縮のためだ。



 もうすぐ、だ。



 俺を止めるものは何もない。



 そういえば、このゲームの総プレイ時間はどれくらいだろうか。記録を見れば具体的な数字はすぐにわかるが、明らかに俺は廃人だろう。


 まあ、そんなことはどうでもいい。



 目的地に到着した。想像以上に混み合っている。ざわざわとした空気の中、無数の敵が思い思いに動き回っている。空は暗いが、灯りのおかげで視界には問題がない。

 

 俺はこれから、こいつらを倒す。


 俺は武器を握りしめながら、敵を観察した。強そうな奴もいれば、力なく歩いている奴もいる。無差別に敵を倒す、そう決めてはいたが、自然と目が向かうのは――非力そうな奴だった。年老いた奴、細い奴、かなり若い奴。俺は無意識のうちに、そういう相手ばかりを見ていることに気づいた。

 

 自分に嫌気が差した。だが、それでいい。いや、仕方ないことであるはずだ。強い相手を倒せるわけがない。俺のやるべきことは「勝つこと」だ。どんな手段を使おうと、それの目的さえ達成すればいい。


 狙いを定める。

 

 その敵の手には何も握られておらず、防具もない。周囲を見回す様子もなく、無防備そのものだった。おそらく、他の敵の手によって弱らされた奴だろうか。いや、敵の体型をみるに、その敵の全力も大したものでは無いだろう。


 タイミングを見計らう。人混みから離れた場所へ敵が行くのを待った。ざわめきは遠くへ消え入り、心臓が高鳴ってきた。呼吸すら忘れてしまいそうになった。

 

 敵を倒しても誰も気づかない。それどころか、誰も関心を持たない。それが、このゲームの本質だ。だから、敵が一人になるのを待つ必要はないことに気づいた。タイミングなんて、考える必要はない。


 武器を構えて、駆け込んで、その敵の広い背中に武器を力いっぱい突き刺した。


 敵が短く息を呑む音が聞こえた。次の瞬間、彼は地面に崩れ落ちた。

 

 しばらくして、敵を倒せたのか確認した。勝利は確実だ。

 

 敵の体からアイテムを取り出した。背骨の一部だ。体から切り離すのには苦戦したが、なんとか得られた。


 敵から取り出したそれは、新鮮で赤みがかっているものだった。アイテムを握りしめたまま、俺はその場に立ち尽くした。


 ゲームの仕様上、倒された敵は一定時間後に消える運命だ。


 今、感じるのは、喪失感のみだった。ほとんど何も得られなかったが、ほとんど何も失わなかった。


 武器を握る手の力が抜けていった。武器は手を離れて、地面に着いた。金属音が鳴った後の静寂の中、俺は立ち尽くしていた。


 喪失感しか残らないのなら、俺はこんなことをしない方が良かったのだろうか。いや、そうもいかない。俺がやってなくても、誰かがやるはずだ。



 ふと自己責任・自業自得という言葉を思い出した。若い頃、よく言われた言葉だ。



 いいエンディングが見られるだろうか。



 このゲームは同接数世界一位――八十億人のクソゲーだ。

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